フィランソロピーと社会的インパクト投資(ロナルド・コーエンのスピーチから)

社会的インパクト投資は、近年日本でも非常に注目を浴びています。

社会課題の解決に取り組むNPOや社会企業に、投資家や政府が投資をします。そのリターンは、金銭的なものに留まらず「より良い社会の実現」という形で還元されます。

2016年末には休眠預金に関する法案が可決されるなど、日本でもその動きが活発になってきています。

 

この社会的インパクト投資を調べていくうちに出会った次の資料をご紹介しつつ、考えを深めていきたいと思います。

 

『フィランソロピーに革命を起こす:インパクト投資』

(G8社会的影響力のある投資タスク・フォース議長ロナルド・コーエンのスピーチ、2014/1/23)

 


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伝統的なフィランソロピーはやりがいの搾取

ロナルド・コーエン議長は伝統的なフィランソロピー(助成財団など)が慈善行為そのものに重点を置きすぎてきたことを指摘しています。

伝統的なフィランソロピーが、社会的成果の達成よりも慈善行為に重点を置いてきたということです。彼らはまず慈善団体に2〜3年資金を与え、健全性をチェックする意味でその後は別のところから資金を集めるようにと言います。そしてなんと、その資金を管理費などに使ってしまって無駄にすることのないようにと言うのです。もしビジネス起業家が、管理費などに全くお金を使わないような事業計画をもってApaxの私のところに来たなら、追い返すでしょう。予測不可能な資金調達と投資資本の不足が相まって、ほとんどすべての慈善団体が潜在的な効果の発揮と規模の拡大を実現できずにいるのです。(p.3)

引用(以下の引用全て同じ):

https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/20140123_wayaku.pdf

管理費なんて事業費の15%から20%は確保されていないと、結果的に事務局がブラックな働き方を強要されることになります。NPOあるあるですが、助成金の申請や報告の〆切前夜は、担当者が徹夜することは茶飯事でしょう。

「こんな目に遭うなら、もう助成金なんていらない・・」というつぶやきは、何度も耳に(口にも)してきました。やりがいの搾取です。

 

社会的インパクト投資は結果的に社会的コストを引き下げる効果がありますが、さらに言えばNPOの事業運営を効率化・ホワイト化し、課題解決を担う側も受益者の側もハッピーになりうる仕組みでもあるでしょう。

 

社会的企業がそのミッションから逸脱しないように

「目的ー利益型企業」すなわち社会的企業がぶつかる困難については、このように指摘されています。

営利目的のインパクト投資の発展にとって主な障害となっているのは、目的ー利益型ビジネスが、利益を上げなければならないというプレッシャーを受けて、その社会的ミッションから逸脱しないようにする必要があるということです。(p.6)

NPOか株式会社か。社会的な事業を起こそうとする時に、悩む方も少なくないと思います。株主への利益還元に縛られて貧困対策などに資金投下しづらくなるという点から株式会社を選ばない経営者もいます。しかし。

アメリカでは、企業が最大限の利益を上げることよりも、社会的な目的を追求することを可能にする第一歩として、社会的営利会社(Benefit Corporation)が創設されてきました。(p.6)

この仕組は万能ではなく、まだG8タスクフォースでの検討が続いているそうですが、NPOか既存の株式会社かに絞られない、幅広い選択肢が準備されることになれば、それだけ豊かなイノベーションを生み出す土壌が整うことも意味するでしょう。

 

非営利団体のバランスシートを強固にする

我々は、非営利団体が、寄附や助成金を基盤としつつ、その上に、純株式、SiB、ソーシャル債、債務、流動性・非流動性の金融商品などの社会的資本を積み上げた強固なバランスシートを構築できるよう手助けする必要があります。そして、非営利団体がこうした資本を得るには、定量的に示された社会的実績値を向上させ、成果に対する資金提供者としての政府や財団あるいは企業からの実際の資金提供に結びつけるようにする必要があります。(p.7)

ぼくは、いくつかの非営利団体(NPO)に関わらせていただいてきた中で、やはりこうした「手助け」が何より必要ではないかと痛感します。いわゆる代表者が現場も回しながら経営も安定させなければならないという団体が、現状では多数でしょう。にもかかわらず、行政をはじめ「社会」は平気で課題をそこに丸投げしようとする。そして、NPOは代表者とともに潰れていく。そんな例は枚挙に暇がありません。

その社会課題に気づいて情熱とリーダーシップを持って取り組む代表者が、必ずしも経営者としての才覚も持ち合わせているとは限らない。ですから、その部分は「手助け」してくれる人たちの力を借りて、代表者自身は「課題解決方法の提案」「成果の定量化」に注力する形がベストではないかと思います。そうすることで、「課題解決への情熱」と「経営の才覚」の両方持ち合わせたスーパーマン/ウーマンではなくても、より多くの人が、望ましい社会の構築に主体的に関われる環境が整うのではないかと思うのです。

 

「市場の見えざる心」で、「見えざる手」が取り残した人々を助ける

我々の革命は始まっています。やらなければならないことはたくさんあります。一緒に立ち上がりましょう。市場の「見えざる心」で、「見えざる手」が取り残した人々を助けようではありませんか。(p.13)

「市場の見えざる心」というのは、G8のタスクフォースが2014年に発行した報告書のタイトルから引用されています。

 

『社会的インパクト投資 市場の見えざる心』アントレプレナーシップ、イノベーションと公益に資するファイナンス  2013年G8議長国英国により設立された社会的インパクト投資タスクフォース報告書

 

アダム・スミスの「見えざる手」をもじったものです。「見えざる心」が市場に、社会に根付くかどうか。 というより、根付かせるのは私たちです。

ソーシャルセクターの担い手として、我々はこの動きをまずはよく学ぶことから始めるべきだと思います。

 

 

「社会的インパクト」とは何か?については、こちらの本に詳しく書かれています。