海外にルーツをもつ子ども(外国人の子ども)の保育と就学前支援 Q&A

海外にルーツをもつ子ども(外国人の子ども)について、ある学生さんからいくつかの質問をいただきました。

ここに、Q&Aの形にしてお答えしたいと思います。

 

Q1. 小学校入学前後の場面で、地域連携の「協議の場」は実際どんなものですか?

地域によって様々だと思います。同じ岐阜県でも、可児市や美濃加茂市は手厚いのに対して、同じ県内でもあまり協議の場が設けられていない市も、熱心な一部の教育委員会の人たちだけが動く市もあります。

 

可児市には小学校の教諭、ばら教室KANIの担当者、教育委員会の幹部、地域のプレスクール実施NPOなどが参加する「外国人児童・生徒の教育に関わる担当者会議」というものがあります。およそ隔月の定期開催です。これにより、地域の支援者・指導者が一体となって情報交換・共有ができるし、さらにはいつも顔を合わせることによって「今度おたくのとこ、見に行かせてくださいねー」というような声かけをお互いにすることができます。そして実際に足を運び合う関係につながることが多々ありました。この、言うなれば「副産物」が意外と重要だと思います。地域内連携は足を運び、顔を合わせることが、お互いの信頼関係を築く上でどうしても欠かせないものだからです。

 

なお、上記「担当者会議」を設置する際に作られた概要がオンラインで公開されていましたので、以下に貼っておきます。

「外国人児童・生徒の学習保障」事業実施の手引き(可児市教育委員会)

 

 

Q2. 来日間もない子の支援、障害のある子の支援をどうすべきと考えますか?

来日間もない子については、そのような子どもを幼稚園・保育園につなげるためのプレスクールというか、「プレ保育園・幼稚園」が必要だと思います。カナダ・トロントの事例が参考になると思います。以下の記事を、よろしければご参照ください。

 

カナダの保育はどんな様子? トロントの子育て支援センターにおける多文化共生・バイリンガル幼児教育のご紹介

 

散在地域(比較的少数の外国人がバラバラに住んでいる地域)なら広域連携(いくつかの市町村がまとまって一つの事業をすること)で一つのプレスクールを作ってもいいかもしれないと思います。それもできないくらい少数しかいない地域は…正直なところ、いい案が思い浮かばないのが現状です。さらに、子どもたちの出身国も言語もバラバラだったりすると、相当難しいですね。

 

ちなみに、小学校以上の日本語教育では、東京のNPOがこんな取り組みをして、地方の散在地域にいる子どもたちを救っています。就学前幼児にも、同じことはムリだとしても、インターネットの力を使って何らかの解決策を見出すことは可能かもしれません。

参照:NICO PROJECT(ニコ・プロジェクト)

 

障害のある子については、たとえば自閉スペクトラム症などの診断を、言葉を介さずに正確に行うことは難しいため、通訳が付き添って医者に行って診断を受けることになります。そうすれば、地域の発達支援センターに通うことなどもできるようになります。しかし、発達支援センターも予約がいっぱいで月2回程度しか通えなかったり、通訳が常駐しているわけでもなかったりするので、通うことの効果は限定的かと思います。

 

この課題について、先の長い話にはなるかもしれませんが、バイリンガル・バイカルチュラルの臨床心理士や精神科医師、ソーシャルワーカー、あるいは保育士などの専門家を増やすことは、あらゆる問題の一つの解決策になりうると思っています。日本で育って教育を受けた海外ルーツの子が専門職の資格をもって対応できれば、それは子どもたちにとってこの上ない味方になってくれるはずだからです。

 

それでも少数言語をつかう子どもには対応しきれないなどといった問題は残るかもしれません。終わりはないだろうけれど、でもやれることがないわけでもないし、それはやるべきだと思っています。

(なお、例えば、精神障害の診断については、出身国で受けた診断を日本の制度に互換して適用することができる仕組みがもしいま無いのであれば、それをするのも一つの手だとは思います。)

 

いかんせん、外国籍の人には選挙権がありません。さらに、こういったお金のかかるわりに票につながらない政策や予算要求は、通りにくいのが実情です。それでも、もし、選挙権のある我々「日本人のおとな」が、国籍を超えてすべての子どもたちのことを考えて投票すれば、そしてその数が大きくなっていけば、社会は変わるかもしれないと思っています。

 

「福祉が必要な人間は自分の国に帰るべきだ」と言って閉め出す社会か、「この国にいる子どもはみんな私たちの子どもだ」と言って包み込む社会か、どちらに生きていたいのか。投票権のある私たち一人ひとりが、問われています。

 

 

Q3. プレスクール事業などは公的支援として全国的に行うべきでしょうか?

行うべきだと思います。

ただし、プレスクール(通常3ヶ月から半年程度の期間で行われる小学校入学の準備教室)に予算を割くよりも、3歳(年少)ごろから地域の一般的な幼稚園・保育園に通うことができるような仕組みづくりのほうが重要だと思っています。

 

日本語を、数ヶ月という短期間で「授業」として「勉強」しても、身につけることは困難です。私たちが英語の勉強にどれだけ時間をかけたか、思い返してみたら実感しやすいかもしれません(笑)。

 

むしろ、早めに日本語をしゃべる日本人の子どもがたくさんいる環境に飛び込んで、なれてしまうほうが、3−5歳児にとっては良いと思います。詳しくは、以下の記事をご参照ください。

 

外国人幼児の小学校就学支援、6ヶ月では短すぎる?

 

なお、こうした事業を全国的に行うためには、「法律」として施策が位置づけられている必要があります。法的根拠が無ければ、各自治体の判断(条例や規則を制定するかどうか)によって支援の有無や質などが左右されることになるからです。それでは、たまたま住んだ市町村が支援の手厚いところだったからラッキー、手薄の市町村に住んだ子は残念でした、といったことが起こりうるからです。(実際に小学校の日本語初期指導などは、いままさにそういった状況にあります。)

 

Q4. 幼児教育・保育の無償化についてどうすべきだと思いますか?

進めたらいいのはもちろんだと思います。ただし、財源は限られています。8,000億円とも言われるその予算を、全て無償化に使ってしまうのには賛同しかねます。なにを最優先するか、よく考えるべきだと思います。

 

今回の無償化は、私立幼稚園に通わせている比較的家計に余裕のある家庭の負担をも軽減します。それより、待機児童の解消や、3歳からの義務教育化(せめて5歳)、そして日本語を母語としない(外国人の)子どもの受け入れ体制の整備に財源を回したほうがいいのではないか、と私は考えています。以下の記事もあわせてお読みいただければ、理解を深めていただけるかもしれません。

 

幼児教育無償化により外国人向け託児所(外国人専用の認可外保育施設)から認可保育園に利用者は流れるか?

 

まとめ

望むべくは、就学前から高等教育に至るまで、外国籍の子どもや日本語を第一言語としない子どものための教育に関する法律を整備することだと考えています。

さらには、すべての子どもの5歳(あるいはもっと早期)からの保育・幼児教育の義務化もあわせて行うべきだと思います。それによって言葉の違いや障害の有無が原因で社会のつながりの輪から疎外される子が減ると思うからです。

 

いま日本は、外国人労働者の受け入れ政策が歴史的な転換点を迎え、事実上の移民社会へと向かおうとしています。私たち日本社会の未来のためにも、そしてこれからやってきてくれる子どもたちのためにも、ここで確かな受け入れ体制の整備をしなければ、誰もが不幸になる未来しかやって来ないかもしれません。早期の適切な制度整備が必要です。

 

以上、海外にルーツをもつ子ども(外国人の子ども)の保育と就学前支援に関するQ&Aでした。