バイリンガル・マルチリンガル(BM)子どもネット研究会|2019年度

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2019年8月3日(土)、国際基督教大学(ICU)で2019年度『バイリンガル・マルチリンガル(BM)子どもネット研究会』が開かれました。

 

 

以下、発表内容などの抜粋を掲載します。

 

配布資料(予稿集冊子、全36ページ PDF: 4409KB)オンライン版はこちら

「BM子どもネット研究会」ウェブサイトより)

 

日本で発達障害を疑われたブラジル系児童の複言語での能力評価(松田真希子|金沢大学)

集住地区におけるCLD児(Culturally and Linguistically Diverse Children)の特別支援学級在籍比率は5%以上で、一般の2%台と比べて高い値を示している。

 

発達障害か言語の違いによる困難か、どちらか不明な子も特別支援学級に在籍しているから高い比率が出ているのかもしれない。

 

「カエルプロジェクト」との共同研究で、日本国内の集住地域でWISC-Ⅳを実施した。

 

一時的なリミテッド状況は、診断結果のグラフが「ゆるやかなN型」(一般と同様)を示すようである。言語理解とワーキングメモリーが他のスコアよりも相対的に下がり気味になる。(一般的に発達障害の状況でははっきりとしたN型を示す。)

 

一言語のみのWISCでは、正確な診断ができない可能性がある。

 

あるCLD児は、ポルトガル語で答えられないことを日本語に切り替えたら答えられることもあった。

診断する医師等もどちらか一言語しかできないケースが多く、それゆえ正確な診断が得られないおそれがあると考えられる。

 

意味境界が曖昧なこと(例:キリンをみてクマと言う)は一時的リミテッドの子には見られないが、発達障害の子には見られるように思われる。

 

他に、発達障害の傾向として、オノマトペの頻出(反復行動)が見られる。

 

Q&Aのコメントから抜粋

  • 事例であがった子どものことで、自閉症ではないのに自閉症と診断された例で、(様々な原因が考えられるが)そのきょうだいが自閉症だったため本人の診断にもバイアスがかかった可能性がある。
  • 普段の行動から自閉症の見立てをもって病院にかかったところ、「一見そのように見えるが、自閉症ではない」と医者に言われた事例も挙げられた。
  • 一回のWISC診断で言語を切り替えながら行なった。通訳対応でも、得意な一言語のみでもなく。松田先生としてはバイリンガルテスターの方がいいと思っている。両言語が分かる人だからこそ分かることもあるため。

 

 

グレイゾーンの子どもの見方と支援のあり方(高橋悦子|日本ペルー共生協会)

プレスクール11月〜3月(全50回)で開始期と修了期に、愛知県のプレスクールマニュアルにある語彙テスト100問を実施した。

 

ある事例の子どもは、その5ヶ月程度の間に、正解数(100点満点)が10点台から40点台に上がった。このことから、学習をすれば成果が上がるということが分かる。

 

① WISCで「言語力が非常に低い」という結果が出たとしても、就学前教育を受けていない等の理由で日本語環境に入ってからの期間が短いことから低く出ているだけの可能性もあり、「現時点での」日本語能力は低いと解釈すべきである。

 

② 同じ子どもにDLAで検査したところ、読むスピードは「遅くない」と結果が出たが、つじつまが合わない想像の傾向があった。「習得は進んでいるが、日本語がわからない時の手がかりをつかむことが難しい」という解釈をした。

 

③ その後、WISCの言語理解をスペイン語訳して実施。スペイン語でも、日本語と点数はほぼ同じだった。日本語では言えないことが、スペイン語ではたくさん話すが、内容が合っていない。「言葉の重要/本質的な意味・内容を捉えたり述べたりすることが難しい可能性がある」という解釈をした。

 

④ DLAもスペイン語で実施。読み聞かせのあらすじは正確に理解し、再生できる。文法正確度が高い。テスターの冠詞の間違いも、自分でリピートする時には正しく直すなど、母語話者の強みが見えるスペイン語力がある。「日本語よりスペイン語力の方が確実に高い」と解釈。

 

 

上記③と④の解釈に一見、違いがあるように見えるが、そうではない。「母語話者ゆえに正確な文法で話はできるが、質問に対する的を射た回答はできない」ということ。

 

こうした発表が今日の場で行われた意図の一つは、検査等で数値が出たとして、外国ルーツの子の背景や特性をよく知らない先生が検査し、結果の数値だけを見て「はい、特別支援教室へ」という判断をくだす危険性を分かってもらえたら、ということ。

 

 

上記の子のケースで、今後の指導に向けてのアドバイスとしては、「分かる」「できる」を丁寧に積み上げること。

 

日本語・スペイン語両方とも学年相応の力があるとは言えないが、スペイン語の方が「わかる」こと「できる」ことがはるかに多い。

「トランスランゲージング」を活用した指導:スペイン語(第一言語)で学習内容を予習してから授業に入る。

 

→推測を補うための、視覚化・焦点化・共有化

  • 指示を明確に(はっきり・短く)。繰り返す。
  • 背景知識や経験と内容を結びつける。
  • 視覚資料、実体験などを活用
  • キー語彙の予習
  • スモールステップのタスク
  • 話し合い活動
  • 飽きさせない工夫、褒めてやる気を促す

 

→子どもに合った方法で、「土台」の弱い部分を補強する。

  • フラッシュカード:文字や数字を読む「速さ」を上げる。
  • 計算や文章題を解く「手順」を決める。

*単なる繰り返し、子ども任せのプリント学習では効果がない。

 

 

2019年度BMCN研究会 趣旨説明(中島和子|BMネット代表・トロント大学)

配布資料:「趣旨説明」(中島和子先生) こちら

 

今年度の本研究会のハイライトは、以下の3点であると考えている。

 

  • 講演「幼児期の子どもの読み書き基礎能力のアセスメントと力を伸ばすための働きかけ」
  • パネル「母語をなくさない公立校での日本語教育 – 日本で可能か?」
  • 特別課題「日本語教育の推進に関する法律と今後の課題」

 

継承語日本語教育において、幼児期ほど大切な時期はない。

しかし、国際交流基金(JF)は幼児期の教育をやっていない。それは課題である。

 

母語はなぜ必要か? − 識者の声

ダネシ, M (1991)

  1. 言語間の転移
  2. 子どもは物語性をとおして周囲の世界を理解する(物語性は文化によって異なる)
  3. 認知力の強化

 

カミンズ, J (2011)

  1. バイリンガリズムは言語の発達上・教育上でプラスになる
  2. 母語の熟達度で第2言語の伸びが予測できる
  3. 母語を伸ばすことによって学校言語も伸びる
  4. 学校でマイノリティ言語で学習しても学力にマイナスはない
  5. 母語はもろく、就学初期に失われやすい
  6. 子どもの母語の否定は、子ども自身を否定することになる(学校側・教師側の姿勢の重要性)

 

真嶋潤子 (2009)

参照:『兵庫県 平成20年度 新渡日の外国人児童生徒にかかわる母語教育支援事業 実践報告書』p.38-43

  1. 認知力育成
  2. 日本語能力の伸長
  3. 自己肯定感やアイデンティティの確立
  4. 家族との絆
  5. 権利としての母語保障

 

野津隆志 (2010)

参照:『母語教育の研究動向と兵庫県における母語教育の現状』

1. これまでの日本

・母語教育の不在 – 日本語指導の補助的役割が中心

・個人にプラス

→教科学習と日本語能力の形成

→アイデンティティの形成

→家族とのコミュニケーション

 

2. 今後日本で必要なもの

  • 母語権利論
  • 母語資源論(社会的・経済的・文化的)
  • 往還型CLD児が必要とする母語教育

 

幼児期の子どもの読み書き基礎能力のアセスメントと力を伸ばすための働きかけ(北洋輔|ヘルシンキ国立精神・神経医療研究センター)

配布資料:「幼児期の子どもの読み書き基礎能力のアセスメントと力を伸ばすための働きかけ」(北洋輔先生)こちら

導入:読み書きができなくても生きていける?

発達=子どもの支援の根底

  • 現在地を特定する→子どもの現状は?何につまずき、何ができるか?
  • 行き先を決定する→次に何を学ぶ段階なのか?今までどんな過程を辿ったのか?

 

“日本語”の読み書きの発達は?

  • 音の識別(受動的) 0-1歳(音) 1-2歳(語)
  • 音の利用(能動的) 2,3歳〜(言葉遊び)

→音のイメージの形成・保持

  • 文字への興味(e. Emergent literacy) 3,4歳〜
  • マッピング(音を文字に対応づける) 4,5歳〜

  • ひらがなの読み書き(デコーディング=解読) 5,6歳〜
  • 漢字の読み書き 6歳〜

  • 文字を読む・書く 6,7歳〜
  • 最終目的は「読める」ことではなく、読んで「何を」するか

例)読めるようにするだけでなく、「先生、読んで楽しいね」という言葉が出ることをゴールとする。

反対に、間違えた漢字を10回、100回練習させるのは鬼でしかない。

 

  • 小5の段階で読解力は何が影響するのかというと、漢字を読む力や記憶力ではなく、語彙。これはあらゆる言語の研究で証明されていること。

 

読み書きの問題はなぜ見過ごせないのか

読み書きのつまずきがもたらす影響

国語のみならず、学校不適応や二次的な心因反応の問題が大きくなる。

不登校になる率が3割。

 

就学前にどれくらいひらがなが読めているのか?251名調査。

8割以上が年長で40文字以上読める(清音45字中)

(2007年のある研究者の研究結果がある。)

 

小1インパクトを軽減するために

  • 早期発見、早期対応
  • ディスレクシアは、英語は(世界的にもデンマーク語に次いで)非常に起きやすく(5〜11%)、日本語は起きにくい(数%〜2%)

 

評価:読み書きを育むための素地

 

読み書き能力 ≠ 読み書きそのもの

 

幼児期に育つ「読み」の獲得に関わる力に着目をする

視覚認知、音韻認知、ワーキングメモリーの上に「読み」が成り立つ。

 

読むことの以上ではなく、読むことを支える力の異常。

発達に基づいた素地評価が必要。

 

 

リスク児を認知能力から予測する

  • どの認知能力が、読み能力を最も予測するのか → リスク児判定の観点となる

 

音韻認識                あ、た、ま (言葉にあわせて手を叩く)

呼称速度                時計の絵を見て時計という

短期記憶                325603などの数列を記憶させ、言わせる

 

複数の要因が関与→複数の精査が必要となってしまう

 

読み書きのリスクを見分ける5つのポイント

  1. 文字を読むことに関心がない【文字関心】
  2. 単語の発音を正確に言えないことがある【音韻意識】例:エレベーター→エベレーター
  3. 自分の名前や、ことばを言いながら、一音一歩ずつ移動する、あるいはコマを動かす遊びができない【音韻意識】例:グリコのあそび
  4. 歌の歌詞を覚えることに苦労する【聴覚短期記憶】
  5. 文字や文字らしきものを書きたがらない、書くことに関心がない【文字関心】

 

読み書きのつまずきの前駆症状

・子どものサインを見逃さない

 

 

 

介入:自然と読み書きを身につけられる子、そうではない子

 

基本

  • 就学前に文字の学習は必須ではない
  • リスクある子どもほど、すでに文字への関心が乏しい
  • そして…よみを獲得する素地も十分でないことが多い

  • 読みを獲得する素地(力)を養っていく
  • 文字を読むと楽しいという意欲を高めてあげる
  • プラスαではなく、日々の遊びを工夫する

 

よくある考え方の対立

  • 就学前に読み書きを教えるべき

V.S.

  • 就学前に読み書きのことは考えなくてよい

 

→就学前は読み書きの素地をつくる大切な時期

→読み書きは単独で存在する認知能力ではない

音韻意識、文字関心、聴覚短期記憶

例:グリコ、かるた、1対1での読み聞かせ(写真参照)→集団だと注意がそれてしまいがち。お母さんと自分だけの特別な世界というのが嬉しい。図鑑の読み聞かせはNo。絵だけ図だけだから。

 

 

朝の5分の活動から

朝の活動で「言葉遊び」を少し取り入れ始めたら、文字に興味を示す子どもが多くなった。

→活動の幅が広がる

 

 

決して間違わない、伝えないでほしいこと

→リスクがあるからといって、就学前から「字」を強制的に教えることは危険。苦手な子に押し付けても余計に嫌がる。

 

苦手を治そうとするのではなく、その一歩前に目を向けて、しっかりアセスメントをすること。

 

まとめ

  • 読み書きの発達は生まれたときから始まる
  • 土壌から将来の読み書きを予測する
  • 読み書きを教えるのではなく、準備をする
  • 評価に利用される立場から評価を利用する立場へ

 

大阪発『母語をなくさない日本語教育』は日本で可能か(パネルディスカッション)

配布資料:「大阪発『母語をなくさない日本語教育』ー日本で可能か」(真嶋潤子先生、于涛(イ タオ)先生、櫻井千穂先生)こちら

はじめに(中島和子|トロント大学名誉教授)

日本語を学ぶことに気を取られている間に、言語形成期にある子どもたちは自分の母語を忘れてしまったり、十分身につけられなかったりしている。

 

「ここは日本だから日本語さえできればよい」として母語がないがしろにされたり、無視されたりすることで、そのような子どもたちが自信をなくしたり母語に対して恥ずかしく思ったりするケースは多い。

 

子どもたちが日本語を身につける代わりに親との絆である「母語」を失くしてしまうのは、アイデンティティや精神的発達など多くの面から損失が大きい。

 

 

このような現状に鑑み、大阪府下の公立K小学校でこの子どもたちの二言語能力の発達とその言語環境について問題意識を持ち、長年にわたって研究を行ってきた。

 

その成果は、『母語をなくさない日本語教育は可能か -定住二世児の二言語能力』(真嶋潤子(編著)、2019)にまとめられている。

 

 

以下のパネルで、本書から一部紹介するとともに、同じ地域の別の小学校での教育実践(ブック大作戦)を報告する。

 

中国語と日本語の二言語能力 —横断と縦断調査の結果から (真嶋潤子|大阪大学)

大阪府下で、中国語母語児童が2-3割を占める公立K小学校で、中国語と日本語の縦断的調査を行った。

 

とくに以下の2点の研究課題から分かったことをとりあげる。

 

1.定住2世の中国ルーツ児童の日本語を「話す力」と「読む力」の実態

日本生まれ・幼少期来日でも、在籍学級の授業に参加するにはまだ支援が必要な児童はかなりの割合にのぼることがわかった。

 

したがって、日常会話では問題が無さそうに見える児童でも、支援なしで授業についていくことが難しいケースは多いと言える。

 

ゆえに、長期的できめ細やかな支援が必要である。

 

2.定住2世の中国ルーツ児童の日本語を「読む力」と中国語力の関係

「中国語がよくできる子どもは日本語ができない」というものではないこと、また「日本語ができる子どもほど中国語ができない」というものでもないことが実証された。

 

CLD児(文化的言語的に多様な子)のもつ2つの言語能力が相互に関係しているという二言語相互依存仮説(Cummins, 1981)は海外の様々な研究で実証されているが、本調査を行った大阪府のK小学校でも「二言語相互依存仮説」を支持する結果が得られたことは特筆すべきである。

 

母語である中国語で日常会話を行うことはもちろん、読むことまで出来るようになることが、たとえ時間はかかっても、日本語の読む力を伸ばすことにもつながることがわかった。

 

その他の参考文献:中島和子(2016)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』アルク

 

公立小学校における中国語ネイティブ教員の役割と可能性(干涛|八尾市立小学校教員)

上記と同じ大阪府のK小学校(干先生が昨年度まで勤務)では、「S国語」と呼ぶ取り出し日本語教室を設けている。

定住2世児の場合、1〜3年生で中国ルーツ児童を対象に週3回(90時間以上/1学期3ヶ月)、国語の時間に取り出し指導を行っている。

 

主な指導内容

  • レアリア、絵カード、ICTなどを活用した日本語と母語の語彙学習
  • 学習内容を、母語を介して保護者にも知ってもらい、親子間の話題を提供
  • 生活言語を大切にし、両言語の教材を使い、内容理解を深め、保護者に対して母語による家庭学習の支援を促す

 

子どもの持っている力を活かし、その時々に必要な内容を学習することができるようになってきた。

 

また、日本語に自信を持てない児童は、母語を介して学習内容を理解し、考えを発表することができ、学習に自信を持てるようになった。

 

子どもの言語能力を正しく把握し、日本語と母語を切り離して考えるのではなく、相互に依存し、互いに影響し合う関係であることを念頭に置きながら日本語指導を進めたところ、効果が現れたと考えられる。

 

プロジェクト型学習(PBL)と BKD(ブック大作戦)の実践(櫻井千穂|広島大学)

ある小学校で中国ルーツ児を対象に取り組んだ以下の2つの実践についての報告。

 

①プロジェクト型学習による継承中国語教育の実践

田慧昕・櫻井千穂(2017)「日本の公立学校における継承中国語教育」『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究』13号, pp.132-155

 

週1回1時間、中国ルーツ児を学年ごとに取り出し、たとえば「保護者会の招待状」や「校内地図」づくりなどの学年に応じたプロジェクトをとおして中国語を使用する取り組み。

 

②段階的読書プログラム「BKD(ブック大作戦)」

個々の児童の読書力を測定した上で目標を設定し、レベルに合ったテキストから読書を始めた。

1冊の本について「あらすじ作文」を書き、読書記録を書き溜めていった。

 

参考文献:櫻井千穂(2018)『外国にルーツをもつ子どものバイリンガル読書力』大阪大学出版会

 

上記①と②は、形式上異なった実践であり、①は中国語、②は日本語に焦点が当たっているが、以下の4点は共通した柱であった。

  1. 自尊感情・アイデンティティを育てる
  2. 読み書きのベース作り
  3. 成果物を作る・発信する
  4. 楽しい実体験

 

すなわち、「日本語(中国語)ができない自分」から「2つの言葉と文化をもてる自分」への意識変容のためのしかけ作りである。

 

「日本語教育の推進に関する法律」と今後の課題(小貫大輔|東海大学)

配布資料:「日本語教育の推進に関する法律」と今後の課題

 

法律ができたことで、条例や予算の根拠となりうる点で評価されるべき。

しかし、いくつか懸念がある。(詳細は上記の「配布資料」参照)

 

憲法26条を根拠に、外国籍者の教育は国の責務ではないとされてきた。

 

その点について詳しくは、小島祥美先生(愛知淑徳大学准教授)の下記講演会においても議論される予定。

 

彩とりどりのはだの 講演会+ワークショップ 未来の日本を担う「外国につながる」子どもたちのために
2019年8月25日(日) 13:30〜17:00

 

 

・教育機会確保法(2016年成立)3条4項に「年齢」「国籍」という文言を入れることに成功したことは成果だった。

教育機会確保法

(基本理念)
第三条 教育機会の確保等に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
(略)
四  義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。

引用:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(平成28年法律第105号)

 

 

・ちなみに「外国学校」という言葉を使うようにしていて、「外国人学校」とは言わない。朝鮮学校、ブラジル学校と言うように。

 

・学校教育法には「就学させる義務を負う」とあるが、憲法が定めているのは「普通教育をさせる義務」である点に留意する必要。

・また「満15歳」という年齢を定めている点にも留意したい。

 

 

学校教育法

第十七条
(略)
二 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。

 

日本国憲法

第二十六条
(略)
二 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 

* カルダー淑子さんより、在外邦人の子の日本語教育についての話もあった。

 

子どもに関する日本語教育の国の動向と課題(石井恵理子|東京女子大学・日本語教育学会会長)

レジュメ:「日本語教育の推進に関する法律」と今後の課題(再掲)

 

詳細はレジュメ参照。

以下は、レジュメ内の参照資料リンク集。

JSLカリキュラム小学校編

「学校教育におけるJSLカリキュラムの開発について」(最終報告)小学校編

JSLカリキュラム中学校編

学校教育におけるJSLカリキュラム(中学校編)

特別の教育課程

学校教育法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(特別の教育課程の編成・実施)

教員の養成・研修モデルプログラム

外国人児童生徒等教育を担う教員の養成・研修モデルプログラム(文科省委託事業)

→教員養成過程に外国人児童生徒の教育に関する科目を含めるべきではないか。

日本語教育人材の養成・研修

文化庁国語分科会「日本語教育人材の養成・研修の在り方について」

 

 

まとめ

非常に情報が多く、深い学びがえられた研究会だった。その中でも、個人的にとりわけ印象に残った点をいくつか挙げ、私見を述べたい。

一言語のみのWISCでは正確な診断ができない可能性

松田真希子さん(金沢大学)の発表から。

 

多言語の背景をもつ子どもの発達障害(の疑い)については、現場で働く大多数の方の関心事であると思う。

 

本人や親の「日本語のほうが分かる」「ポルトガル語のほうが分かる」という訴えを鵜呑みにし、その1言語でしか検査しないケースは耳にしたことがある。

 

あるいは、フィリピンの子のケースで、「ビサヤ語通訳はいないけど英語なら・・」などと第2/第3言語で検査をせざるを得ないケースもある。

 

加えて、文化的背景や習慣の違いを知らないテスターによる診断も不正確である危険性をはらんでいるという点も興味深かった。

 

検査はしたほうがいい。しかし、その結果を鵜呑みにせず、背景にも注意を払って捉える必要があることを学んだ。

 

ディスレクシアは英語で非常に起きやすく、日本語は起きにくい

北洋輔さん(ヘルシンキ国立精神・神経医療研究センター)の発表より。

 

日本語を第2言語として学ぶ児童・生徒(例:インドルーツの子)が、第3言語として英語を学ぶ際に苦労している様子を見たことがある。

 

「日本語が順調に身についているのだから、英語が身につかないのは勉強不足」と言い切ることは危険かもしれない。

 

幼児期は読みを獲得する「素地」を養うために重要な時期

こちらも、北洋輔さん(ヘルシンキ国立精神・神経医療研究センター)の発表より。

 

幼児期(就学前)に文字学習は必須ではなく、むしろ「読みを獲得する素地(力)」を養っていく必要があるとのこと。

 

つまり、幼稚園・保育園に行かず、6ヶ月程度のプレスクールのみでひらがな・カタカナを習得させて小学校入学に間に合わせようとするのは困難であるということだと考えられる。

 

かつて、文部科学省の「虹の架け橋教室」事業で、就学直前の幼児(5-6歳)にプレスクール的な活動をさせることにも予算が認められたことがあった。

 

それは画期的なことだった。しかし、それでもたった6ヶ月ではとうてい就学に間に合わせることはできないと感じた現場の先生がたは少なくなかったと思う。

 

幼稚園・保育園に通っていない子どもたちを「小1の壁」にぶつからせないために、わたしたちはもっと早期から社会として教育的介入をしていかなければならないと考える。

 

* ご参考までに、以下の記事もよろしければお読み下さい。

外国人幼児の小学校就学支援、6ヶ月では短すぎる?

 

二言語相互依存仮説(カミンズ)から考える日本語教室での母語の役割

干涛さん(八尾市立小学校教員)、櫻井千穂さん(広島大学)の発表より。

 

学校における母語教育の取り組みから、母語を含むバイリンガル教育は以下の点でとくに意義があるとされた。

  • 自尊感情・アイデンティティを育てる
  • 読み書きのベースを作る

 

日本語教室や日本語学校において、「日本語だけ話しましょう」と促し、他の言語を使用しないよう指導することもある。

 

しかし、日本語によるコミュニケーション力の向上は、日本語の語彙数を増やし、文法を正確に理解し、それらをタイミングよく発するトレーニングをする・・・だけでは達成できないのではないか。

 

むしろ、

 

  • 母語使用を認めることにより、生徒の自尊感情を守り、他者から自分を肯定されている感覚を得、自信をつけさせること
  • また、時に母語等を介在させて学習内容をクリアに理解させること

 

それらをとおして、包括的なコミュニケーション力の向上を図ることができると同時に、

基本的に「異文化」である日本社会の入口である日本語教室/学校において「認められた」「歓迎された」経験を蓄えることで、次のステップへ進む恐れが取り除かれ得るのではないか、と考える。

 

 

 

報告は以上です。

 

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