塩見訴訟(最判平元.3.2)|わかりやすい憲法判例|人権:人権の享有主体(外国人の人権)

 

概要

障害福祉年金の受給を請求した者が、障害認定日に日本国民でなかったことを理由に請求を棄却され、これが争われた。

 

  • 社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。
  • 法81条1項の障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。
  • 国籍を理由に社会保障の給付をしなくても、憲法25条、14条1項の規定に違反しない。

裁判要旨

国民年金法(昭和五六年法律第八六号による改正前のもの)一八一条一項の障害福祉年金の支給について適用される同法五六条一項ただし書は、憲法25条、14条1項に違反しない。

理由

原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係は次のとおりである。  上告人は、昭和九年六月二五日大阪市で出生し、幼少のころ罹患したはしかによ つて失明し、昭和三四年一一月一日において昭和五六年法律第八六号による改正前 の国民年金法(以下「法」という。)別表に定める一級に該当する程度の廃疾の状 態にあつた。上告人は、昭和三四年一一月一日においては大韓民国籍であつたとこ ろ、昭和四五年一二月一六日帰化によつて日本国籍を取得した。上告人は、法八一 条一項の障害福祉年金の受給権者であるとして、被上告人に対し右受給権の裁定を 請求したところ、被上告人は、昭和四七年八月二一日同請求を棄却する旨の処分( 以下「本件処分」という。)をした。本件処分の理由は、上告人は昭和三四年一一 月一日において日本国民でなかつたから法八一条一項の障害福祉年金の受給権を有 しないというものであつた。

本件で問題とされている国籍条項が憲法25条の規定に違反するかどう かについて考えるに、国民年金制度は、憲法二五条二項の規定の趣旨を実現するた め、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連 帯によつて防止することを目的とし、保険方式により被保険者の拠出した保険料を 基として年金給付を行うことを基本として創設されたものであるが、制度発足当時 において既に老齢又は一定程度の障害の状態にある者、あるいは保険料を必要期間 納付することができない見込みの者等、保険原則によるときは給付を受けられない 者についても同制度の保障する利益を享受させることとし、経過的又は補完的な制 度として、無拠出制の福祉年金を設けている。法八一条一項の障害福祉年金も、制 度発足時の経過的な救済措置の一環として設けられた全額国庫負担の無拠出制の年 金であつて、立法府は、その支給対象者の決定について、もともと広範な裁量権を 有しているものというべきである。加うるに、社会保障上の施策において在留外国 人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外 国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事 情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、 その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。したがつて、法81条1項の障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。

また、経過的な性格を有する右障害福祉年金の給付に関し、廃疾の認定日である 制度発足時の昭和三四年一一月一日において日本国民であることを要するものと定 めることは、合理性を欠くものとはいえない。昭和三四年一一月一日より後に帰化 により日本国籍を取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金を支給するための措置として、右の者が昭和三四年一一月一日に遡り日本国民であつたものとして扱 うとか、あるいは国籍条項を削除した昭和五六年法律第八六号による国民年金法の 改正の効果を遡及させるというような特別の救済措置を講ずるかどうかは、もとよ り立法府の裁量事項に属することである。

そうすると、国籍条項及び昭和三四年一一月一日より後に帰化によつて日本国籍 を取得した者に対し法八一条一項の障害福祉年金の支給をしないことは、憲法25条の規定に違反するものではないというべく、以上は当裁判所大法廷判決の 趣旨に徴して明らかというべきである。

法 八一条一項の障害福祉年金の給付に関しては、廃疾の認定日に日本国籍がある者と そうでない者との間に区別が設けられているが、前示のとおり、右障害福祉年金の 給付に関し、自国民を在留外国人に優先させることとして在留外国人を支給対象者 から除くこと、また廃疾の認定日である制度発足時の昭和三四年一一月一日におい て日本国民であることを受給資格要件とすることは立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであるから、右取扱いの区別については、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項に違反するものということはできない

参照法条

憲法14条1項, 憲法25条, 国民年金法(昭和56年法律第86号による改正前のもの)56条1項ただし書, 国民年金法(昭和56年法律第86号による改正前のもの)81条1項

裁判所サイト

要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62351

全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/351/062351_hanrei.pdf

『2019年版出る順行政書士 合格基本書』

p.15 憲法 3〈人権〉人権の享有主体