八幡製鉄政治献金事件(最大判昭45. 6. 24)|わかりやすい憲法判例|人権:人権の享有主体(法人の人権)

 

概要

  • 法人に憲法上の人権は保障されるか? → 性質上可能な限り、保障される。
  • 会社は政治的行為をなす自由があるか? → ある
  • 会社は政治資金の寄付をする自由があるか? → ある

裁判要旨

一、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。

 

二、憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の自由を有する。

 

四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附することは、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてなされるかぎり、取締役の忠実義務に違反するものではない。

理由

憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたもの であることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人た る国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、 国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを 禁圧すべき理由はない。

のみならず、憲法第三章に定める国民の権利および義務の 各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきである から、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。

政治資金の寄附もまさ にその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を 与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき 憲法上の要請があるものではない。

論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の 参政権の侵犯であるとするのであるが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の 選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでな く、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはた またま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非違行為を抑制するための制度 は厳として存在するのであつて、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由 なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。

会社が政治資金寄附の自由を有す ることは既に説示したとおりであり、それが国民の政治意思の形成に作用すること があつても、あながち異とするには足りないのである。

所論は大企業による巨額の 寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国に よる政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成す るというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立 法政策にまつべきことであつて、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参 政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。

参照法条

民法43条, 民法644条, 商法166条1項1号, 商法254条ノ2, 商法254条3項,憲法3章

裁判所サイト

要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55040

全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/040/055040_hanrei.pdf

『2019年版出る順行政書士 合格基本書』

p.15 憲法 3〈人権〉人権の享有主体