幼児教育無償化により外国人向け託児所(外国人専用の認可外保育施設)から認可保育園に子どもは流れるか?

 

外国人(フィリピン人)専用保育施設を4年あまりにわたって運営したことがある、保育士の山田拓路(@takuji85)といいます。

 

先ほど朝日新聞の仲村記者がこうしたツイートを流していらっしゃいました。

 

 

今回、認可外保育施設としての「外国人専用保育施設」にも目を向けていただければと思い、この記事を書きました。

 

「外国人専用」保育施設

認可外保育施設には様々なタイプがありますが、そのうちの一つに「外国人専用保育施設」(又は外国人向け託児所)と呼ばれる施設があります。外国人が多く住む地域にしばしば設けられています。

 

たとえば、外国人集住地域として知られる愛知県豊橋市の認可外保育施設一覧には、15園中5園に「外国人専用」という備考が記されています。

 

出典:http://www.city.toyohashi.lg.jp/17964.htm

 

こうした園の多くは、日系ブラジル人など外国人コミュニティの中でのニーズの高まりから、当事者たちが自主的に運営を始めたものです。日系外国人は主として夫婦共働きで工場での長時間労働に従事するケースが多く、保育は欠かせないサービスと言えます。

 

ただ、利用する子どもや保護者は日本語が堪能ではない方も少なくないため、こうした外国人専用の保育施設には、外国語(例:ブラジル人向け施設ならポルトガル語)を理解するスタッフが欠かせない存在となります。しかし、外国語が堪能で保育士資格も持っている人材は滅多にいません。ではどうするのか?

 

多くの施設では、保育士有資格者の日本人+特定の外国語を使える保育補助者(上の例で言えばブラジル人)を同時に配置することで運営が行われています。認可外保育施設であれば以下のとおり、3人に1人の割合で有資格者がいればいい決まりになっています。

 

保育に従事する者の概ね3分の1以上は保育士又は看護師(准看護師含む)の資格を有する者であること。

出典:認可外保育施設指導監督基準 第1. 1. (2)

 

それゆえ、多くの外国人専用保育施設は認可外保育施設として運営が行われてきました。そしてかく言う私も、岐阜県でフィリピン人向けの認可外保育施設を数年間運営してきた経験があります。私自身はフィリピンの言葉(タガログ語/ビサヤ語等)を話せませんが、代わりにそれらの言葉を話せるフィリピン人スタッフを雇用していました。

 

ちなみに、認可保育園でも保育補助者として無資格のスタッフを雇用することはできますが、ポルトガル語やタガログ語を話せる保育補助者はお目にかかったことはありません。したがって、現状では、認可保育園と外国人専用保育施設は各地でそれとなく住み分けがなされているのです。

幼児教育無償化の影響は?

こうした外国人専用保育施設に対する今回の幼児教育無償化の影響は、どのようなものが想定されるのか?私は、かなりの数の外国人幼児が地域の認可保育園に流れるのではないかと考えています。

 

外国人専用保育施設の保育料は施設によってまちまちですが、一般的には日中のみの保育で2-3万円/月、早朝から夕方までの12時間保育で5-6万円と言ったあたりが相場ではないかと思います。それでも言葉の通じない認可保育園に我が子をあずけるのは心配だから(あるいは子ども自身が嫌がるから)と、その保育料を払って外国人専用施設にあずける保護者は少なくないのです。

 

しかし、さすがに認可保育園が無料(3歳以上)になってしまえば話は違ってくるでしょう。これまでは認可保育園にあずけてもほぼ同等の保育料(数万円)を支払わねばならなかったので、「それなら同じ金額であずかってくれて、言葉も通じる外国人専用施設に入れたい」と思う親が多かったのです。

 

ただ、日本に出稼ぎ労働に来ている日系ブラジル人や日系フィリピン人らの多くは、本国に残してきた家族を養うために毎月多くのお金を送金し、自分たちは火の車の家計をやりくりして暮らしているのが実情です。したがって、数万円が無料になるというインパクトによって、例え言葉が通じにくくても認可保育園に子どもをあずけるインセンティブが働くと考えられるでしょう。

 

仮に、国や自治体が認可外保育施設に認可保育園へのアップグレードをするための助成金等を出した場合、外国人専用保育施設が認可園になろうとしても「外国人専用」を謳うことはできなくなります。その保育所に入所する子どもは、国籍を問わず、自治体が公平に割り振っていくからです。結果的に外国人が多めになることはあっても、「専用」ではなくなり、それは一般の認可園と変わらない存在になります。

 

認可保育園に外国人幼児が急増したら

私は外国人専用保育施設を運営する傍ら、行政から委託をうけて公立認可保育園に既にかよっている外国人幼児の通訳・保育支援に取り組んだことがあります。その時の経験から言えることは、ただでさえ超多忙な保育士さんたちが日本語の指示を理解できない外国人幼児を今すぐ受け入れる余裕はあまりない、ということです。

 

言語や文化の異なる子どもを保育することは、容易ではありません。例えば実際にこんなトラブルが起こったことがありました。

 

  • 手紙に必要な持ち物が書いてあるのに伝わらず、絵本袋を持たせてほしかったのに巨大なブランドバッグを持たせた親がいた。

 

  • 園内での怪我について連絡帳にメモを書いたが伝わらず、ジェスチャーを交えて口頭でも説明したがうまく行かず、保護者と園の間にわだかまりが残った。

 

  • イスラム教徒の子どもに宗教的禁忌の食べ物を与えてしまった。

 

  • 良かれと思って先生が「あなたはこれから日本で生きるのだから、自分の言葉(ビサヤ語)を話してはダメよ」と言ったところ、それを伝え聞いた親がショックを受けた。

 

  • 5歳になってもオムツをしているので「親の子育て怠慢じゃないか」と思ったがフィリピンでは普通のことだった。

 

  • 褒めようとして「がんばったね」と頭をポンポンと軽く叩いたところ、子どもが泣き、親がクレームを言ってきた。フィリピンでは褒める時でも頭を叩くのは失礼に当たることを知らなかった。

 

などなど、枚挙にいとまがありません。これらはもちろん保育士の先生方が各国・各宗教の文化を学んでいけば徐々に解決していける問題かもしれませんが、すぐにというわけにも行かないでしょう。保育補助者に外国人を雇うことも考えられますが、適切な人材を育成するにはやはり時間がかかります。

 

ちなみに、東京等で保育所を運営するNPOのフローレンスでもそうした多言語・多文化対応の必要性を認識されている旨が、代表の駒崎弘樹さんによって数日前にツイートされていました。

 

 

しかし、帰国子女の保育士がいかに稀有な存在かは想像にかたくないと思います。ほとんどの保育施設ではできかねる対応でしょう。

 

それでも認可園で外国人保育をしてほしい

問題は山積です。幼児教育無償化は2019年からと言われていて、それまでに現場が「外国人専用保育施設などの認可外」から流れてきた子どもを受け入れる準備が間に合うとは思えません。そもそも、そのようなことが想定されているのかさえ疑問です。

 

しかし、それでも私は認可保育園で外国人幼児の保育を進めてほしいと願っています。なぜなら、外国人幼児の多くはいずれ地域の小学校に入学していくからです。小学校入学の直前になって日本語を覚えたり集団生活に馴染んだりするための教室が開講されることもありますが、ほとんどの場合それでは間に合いません。

 

これまで10年近くにわたり、「定住外国人の子どもの就学支援事業」(文部科学省)「プレスクール(就学前の外国人の子どもへの初期の日本語指導・学校生活指導)のモデル事業」(愛知県)などが行われ、一定の成果はあげられてきました。

 

しかし、これらの事業に取り組んだ地域の日本語教室等の担当者の方々と話している限り、「入学前の準備があるのと無いのとでは大違いでありがたいんだけど、やっぱり3ヶ月とか6ヶ月では限界があるのも事実」という見解が多くを占めていました。

 

日本語を全く理解しない状態の子どもが、小学1年生の教室の椅子に座って集団行動をとれるようになるまでは、やはり時間がかかるものです。1−2年は最低必要でしょう。しかもそれを外国人幼児だけの環境でやったとしても、日本語の吸収はなかなか進みません。

 

一方、年少さんから幼稚園・保育園に通っている子どもは、年長になる頃には周りと全く遜色ないほど日本語が上達していくため、いつも驚かされます。そうした経験を何度も経て、私は、「外国人専用保育所にかよって、小学入学直前の数ヶ月間だけ入学準備をする」という方法ではなく、「年少・年中頃から地域の幼稚園・保育園に通ったほうが、小学校入学以降のことも考えると良い」という結論に至りました。

 

まとめ – 外国人幼児は認可保育園に流れる

私は、今回の幼児教育無償化については、貴重な財源の使い方としてはいかがなものかと思っています。しかし、賛否はさておき、もし実現してしまうのであれば、せめて「認可外の外国人専用保育施設から外国人幼児が認可保育園に流れる」ことは事前に想定して準備してもらいたいと考えています。

 

想定できるものをろくにせずに、「フタを開けてみたらこんなことになっちゃいました」と後で言うのは適切ではないと思います。保護者、保育士、そして誰より子どもにしわ寄せが行くからです。ぜひ、残された時間で可能な限りの準備を、そしてそのための予算確保を確実に実行していただきたいと願います。

 

おまけ – 「外国人保護者向け保育所・保育事業のご利用サポートブック」

外国人幼児の保育所の利用しにくさを生む原因の一つに、「保育制度が複雑なのに日本語の資料しか用意されていない」という点がありました。無償になるならなおさら、日本語の読めない人もちゃんと等しくそのサービスの恩恵にあずかってほしいと思います。

 

そこで、以下の「外国人保護者向け保育所・保育事業のご利用サポートブック」(5言語)をご紹介します。お近くにいらっしゃる幼児の保護者で、日本語を解さない方がいらしたらぜひご紹介ください。

 

 

「多文化・外国人保育」に関する取材等の依頼

多文化保育・外国人保育などについて、ご取材や講演・執筆の依頼を承ります。

これまで、新聞記事に掲載するインタビューや、幼稚園・保育園の職員研修(外国人園児対応、人権研修)になどお呼びいただいております。お気軽にご要望をお寄せください。

 

 

 

以上、「幼児教育無償化により外国人向け託児所(外国人専用の認可外保育施設)から認可保育園に利用者は流れるか」について書かせていただきました。この記事によって、国や言葉の隔てを超えてすべての子どもが適切に保育される社会の実現に寄与できれば幸いです。

 

 

 

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