『ヒーローを待っていても世界は変わらない』 湯浅誠

民主主義というのは、まず何よりも、おそろしく面倒くさくて、うんざりするシステムだということを、みんなが認識する必要があると思います。

民主主義はおそろしく面倒くさい

NPO活動をして、心底これを痛感しました。「目指すべきビジョンはこれだ、その実現に向けたインパクト重視でやらなければ。」その呼びかけのもと、非効率で遠回りな意見はなるべく回避してきたように思います。また意にそぐわない意見については、無視か、対立。

コミュニケーションを遮断することや、言いたいことを言い放つだけのことがそんなに立派なことだとは、私には思えません。異なる意見を持つ者同士こそ大いにすりより合い、とりこみ合えばいいのだと思います。

耳が痛い。しかし、これを実践すればこそ、結果的に社会的インパクトを最大化できるのだという気もします。

「そっちに行くよ」型のアプローチ

お互いが言い放つだけでは現状は変わりません。なぜなら、現状とはその結果だからです。

出かけていくのは、相手の気持ちに合わせる、ということです。それが合意形成の基本の第一歩ではないかと思います。「こっち来い」型のアプローチから「そっちに行くよ」型のアプローチ、押しつけるよりは引き出すアプローチ、自分の世界に引き込むよりも、相手の世界に飛び込むアプローチ。  そうして初めて両者の間に現実に対話の回路ができてくる。

ひとり暮らしをされているお年寄りから何が不便か、ひきこもり状態の人から何が不安か、障害をお持ちの方から街のどこが歩きにくいか、ホームレス状態にある人から路上で寝る苦労を、外国籍の方から外国で暮らすとはどういうことかを聞くのも、自分たちの地域や社会のあり方を考える上で参考になると思います。

NPO活動の進め方は100人100様だとは思いますが、これは少なくとも私の指針になる考え方だと思います。そして、いま活躍しているNPO活動家の方々のお話を聞いていても、おおかたこういうやり方をしているのではないかという気がしています。

 

例:駒崎弘樹「現場の声に耳を澄まそう」目標は、100人ヒアリング

意見の異なる人との対話こそ面白い

人と人を結びつけるスキルやノウハウが乏しいと、仲間内で固まることしかできなくなります。立場の異なる人たちと意見交換することの気苦労に耐えられない、気が重い、面倒くさい、ということです。

意見の異なる人との対話こそを面白く感じ、同じ意見を聞いても物足りなく感じます。同じ意見にうなずきあっていても、それを超える創造性は発揮されないからです。

企業の人、行政の人と話していると面白く感じるのは、とても大切なことなんですね。よく、「私のFacebookでは自民党なんて誰も支持していないのに、選挙になると大勝する」という意見を耳にします。きっと、イデオロギーやセクターの壁を超えた対話を心がけていれば、自分のFacebookのフィードにも自然と多様な意見が流れ始めるのでしょう。そして、より現実社会に近いコミュニティが築かれ、課題解決に繋がる実効性のあるアイディアも出てきやすくなるのかもしれません。

最善を求めつつ、最悪を回避する

最善を求めつつ、同じくらいの熱心さで最悪を回避する努力をすることが必要です。

つい、最善を求めてしまうんですよね。特にNPO活動は、私も含めて「思い」や「気持ち」をエネルギー源にして続けている人が多いから、なおさら。例えば、「学校に行っていない外国人の子どもたちが教育を受けられること」を目指していても、その教育の方法だとか、アイデンティティ(民族意識)の守り方だとかにも固執してしまって、行政や他団体と協働できず結果的に子どもにしわ寄せがいってしまうようなケース。こういう例は、NPOあるあるだと思います。

アイディアという衣装がたくさんあれば

必要なことは、タンスにたくさんの衣服を入れておくように、自分の頭の中に、たくさんの工夫(アイディア)を蓄積していくことです。アイディアという衣装がたくさん入っていれば、さまざまな場面に遭遇した際に、場面に応じた衣装を着ることができます。もし衣服が一着しかなければ、どんな場面にも同じ衣装で臨むしかありません。それでは対応できる場面は限られてしまいます。  そしてたくさんの衣服を持っていれば、それらをコーディネートすることも可能になります。ミクロの工夫をマクロに応用したり、新たな組み合わせからイノベーションを起こすことも可能になるでしょう。

これは保育の場面でも、日本語を教える時でも、あるいはファンドレイジングの場においても通じる考え方だと思います。引き出しをたくさん持っておこう。そのためにはたくさん吸収して、たくさん実践してみなければならない。そう思います。

私たちにできることはたくさんある。

ヒーローを待っていても、世界は変わらない。誰かを悪者に仕立て上げるだけでは、世界はよくならない。  ヒーローは私たち。なぜなら私たちが主権者だから。  私たちにできることはたくさんあります。それをやりましょう。  その積み重ねだけが、社会を豊かにします。

この言葉、大変励みになります。インパクトの多寡も大切だけれど、やはりより多くの人がやれることをきちんと積み上げていく。そうやって築き上げられた社会は、(多少いびつであったとしても)きっと丈夫で、温かみのあるものになるのだと思います。

 

 

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