移民の受け入れがさかんな、多文化共生の先進国カナダ。
しかし、この国の人たちが生まれながら当たりまえに世界中からの移民を包み込んできたわけではありません。
「いろんな人がいて、いろんな考え方があるのがあたりまえ。それこそが人間の美しさだから」
このことを、0歳のころからじっくりと育んでいく社会的な仕組みがあるからこそ、カナダは、世界で最も移民の人たちに選ばれる国の一つとなりえているのです。
そんな小さな子どもたちへの関わり方について、
カナダの最大都市トロントで長年小さな子どもを育て続けてきた「ドンバレーイースト EarlyON こども家族センター」を訪れ、教えてもらいました。
EarlyON こども家族センターとは
英語名では、EarlyON Child and Family Centre といいます。
日本で言うところの「親子スペース」といった感じのサービスを提供しています。
まだ幼稚園などに通っていない子どもをもつ保護者さんたちが、子どもといっしょに2時間ほど滞在して、遊びながら集団生活に慣れていくための場、といった役割をもっています。
以下、センターのパンフレットから引用します。
このセンターでは、子ども、親、そしてベビーシッターのみなさんがいっしょに遊び、学びます。
親御さんは、ペアレンティング・スキル(子育てスキル)を学んだりシェアしたりできます。
そして家族のみなさんは地域で使えるサービスについての情報をあつめることができる場所です。
親であるみなさんとお子さんは、以下のような無料のサービスを受けることができます。
- 親と子ども向けの幼児教育や読み書きプログラム
- 幼児期の発達のあらゆる観点から、小さな子どもの親やシッターさんを支える子育てプログラム
- 新米ママパパのための子育てトレーニングと情報提供
- 親向けリソースルームや施設の紹介など
私たちが目指すことは、「すべての子どもが幸せに、安心して、彼ら彼女らのもつ本当の潜在能力を引き出すこと」です。
引用:The Pamphlet of Don Valley East Ontario Early Years Centre
具体的なプログラムの詳細や、日々のスケジュールなどは、別記事にまとめました。ご興味のある方は、こちらもぜひ!
多文化共生とバイリンガル幼児教育
このセンターはさらに、「我々の責任」として、こんなことも述べてています。
おおくの多様な背景をもつ子どもとその家族のニーズに応えられるよう、十分に柔軟であること。
引用:The Pamphlet of Don Valley East Ontario Early Years Centre
カナダ、とりわけトロントというこの街は、人口のおよそ50%が海外出身の移民で構成されています。
これは人種のるつぼニューヨークをもしのぎ、世界でも1,2を争う移民率の高さ。
民族的マイノリティ(少数派)といわれる人たちが、むしろ多数派になっているという逆転現象が生じているのです。
したがって、多様な文化的・民族的背景をもつ子どもとその家族のケアは、もはやなくてはならない配慮となっています。
具体的には、以下のような感じです。
トロント郊外の「こどもかぞくセンター」。
5人のスタッフ合わせて7言語対応。資料も掲示も多言語か写真イラスト多用。
文化的多様性への深いリスペクトも感じられる。
そしてこれらの資金源は、カナダ国政府や州の公金。
こんな施設がトロントに何十とある。
本気で「多様性を強みに」を貫いている pic.twitter.com/kpNn03kNWn— 山田 拓路 (@takuji85) January 15, 2018
バイリンガル絵本
あらゆる言語をとおしての子育てを応援するために、バイリンガル絵本の数々が備え付けられています。
英語ースペイン語の絵本。
数字や動物の名前が2つの言語で覚えられます。
これは、おそらく『赤ずきんちゃん』の中国語版かな、と思われます。
これも2言語が併記されています。
もはや僕には何語かわかりませんが・・、このような本も。
このセンターには、多種多様な言語の絵本が、壁のラックに常設されています。
このようなポスターも。
「もし子どもの人生がうまくいってほしいなら、家庭言語を手放さないで!」
家庭で使われる言葉(母語のようなもの。親がもっとも得意な言葉)を育てることが大切だ、というメッセージです。
カナダ社会に子どもを溶け込ませたいばかりに、家庭でも英語漬けにしてしまうのは逆効果。
むしろ、例えば中国語を話す親の家庭なら、家では中国語で子育てしてください、ということです。
そうすることで、結果的に子どもが母語(中国語)と現地語(英語)のバイリンガルになるだけでなく、知能の発達にも好影響を及ぼすという研究結果があるからです。
詳しくは、バイリンガル教育の権威として、世界的に有名な中島和子先生(カナダ・トロント大学名誉教授)が書かれた『マルチリンガル教育への招待』を。
なお、この「ドンバレーイースト EarlyON こども家族センター」は、中島先生がアドバイザーを務めていらっしゃいます。
つまり、この施設は、世界でも最良の多文化保育環境が整った場の一つ、と言っても過言ではないでしょう。
多言語の子育て支援情報
妊娠から母乳による子育てまで、ママ・パパのあらゆる心配に寄り添う情報が多様な言語で提供されています。
手作りのあったかいデザインもほどこされています。
また、言語の違いによって発達の遅れが見つけにくいという課題はよく知られていますが、
その解決策のひとつとして、基本的なコミュニケーション能力をはかるだけなら、その場で誰でも21言語でできる資料もオンライン上におかれているとともに、
このセンターにも印刷して配置されています。
カナダ・トロント市の0-4歳児向け「コミュニケーション・チェックリスト」。一つでもNOの回答があればすぐ支援窓口に電話。言葉の遅れの早期発見につなげる。
子どもの第1言語でチェックするため、21種の言語版が用意されている。そこは移民の街ならでは。https://t.co/jNXKw8srSm pic.twitter.com/LVpvXXn4HO— 山田 拓路 (@takuji85) July 7, 2018
「無条件に歓迎する」という空気
このセンターの所長さんにお話をうかがったとき、こんなことをおっしゃっていました。
「移民難民の子どもはたくさん受け入れていますが、そのための施設だと謳うことはしていません。私たちはバックグラウンドを問うことなくあらゆる子どもを無条件に歓迎する、という姿勢を示したいからです」
??カナダ・トロントの〈家族子どもセンター〉所長さんのお話。
— 山田 拓路 (@takuji85) July 13, 2018
これこそが、移民の街トロントの哲学の最たる例だと思います。
これが目指すべき社会のありようではないかなと僕は考えています。
ただ、今の日本社会においては、海外にルーツをもつ子どもたちが社会の端っこにおかれているという課題を顕在化させる意味で、あえて「海外ルーツの子」「外国人の子」を対象としていることをアピールする必要があるとも思っています。
まとめ
以上のように、あらゆる子育ての専門的な情報を集め、かつ、子育てを応援してもらえている、歓迎されているという感覚を得られる場が、カナダのトロントにはあります。
こうしたハイクオリティながら無料で使える子育て支援センターを、移民社会化が急激にすすむ日本の地域にも設定すべきであると思っています。
もちろんそのままコピー・アンド・ペーストしてもうまくいかないでしょうから、それは日本社会にうまく馴染む形に変えて、取り込むことができればと考えています。
以上、トロントの子育て支援センターにおける多文化共生・バイリンガル幼児教育のご紹介でした。
“カナダの保育はどんな様子? トロントの子育て支援センターにおける多文化共生・バイリンガル幼児教育のご紹介” への1件の返信
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