外国人が住民として日本で出産し子育てすること(かながわ国際交流財団|福田久美子さん)
日本全国で生まれる赤ちゃんの数は減った。
その中で、両親どちらかが外国籍の赤ちゃんは増えている。
全国では27人に1人、神奈川県は20人に1人、東京都は15人に1人。
これまでのKIF(かながわ国際交流財団)の活動から気づいたことは、
- 学齢期以前の外国人に向けた支援が手薄
- 保護者に情報やサービスが届いていない
→2014年度から子育て支援事業を開始
2015年度「外国人住民への子育て支援に関わる調査」を実施。
外国人住民への子育て支援に関わる調査報告書
KIF(かながわ国際交流財団)は2015年度、自治体窓口に対するアンケート調査を1年かけて行った。
外国人住民への子育て支援に関わる調査報告書(2016年3月/かながわ国際交流財団)
そこで分かったこと
- 外国人が日本の制度・仕組みをわからない(知らない・理解していない)
- 外国人が相談相手が得にくく、孤立しやすい
- 支援者も外国人のニーズや事情がわからない
課題解決に向けてKIFが行っていること
- 外国人への情報提供
- コミュニケーション促進
- 支援者への情報提供・研修
その結果をもとに、自分たちに何ができるかを考え、以下のパンフレットや動画をつくり、昨年度はガイドブック冊子もつくった。
外国人住民のための子育てチャート~妊娠・出産から小学校入学まで~
Webサイト:『外国人住民のための子育てチャート~妊娠・出産から小学校入学まで~』
チャートのPDFダウンロード
英語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/eng_2016.pdf
中国語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/chinese_2016.pdf
ベトナム語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/viet_2016.pdf
タガログ語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/tagalog_2016.pdf
スペイン語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/spanish_2016.pdf
ポルトガル語 http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2016/10/por_2016.pdf
- ひと目で流れがわかる
- 次の見通しが立つ
- 妊娠したときから情報提供
このチャートは、母子保健財団さんの協力で販売をすることになり、県外でも使ってもらえるようになった。
外国人住民のための日本の子育てシリーズ 〈動画〉
シリーズ1:外国人住民のための子育てチャート(7言語)
シリーズ2:母子手帳ってなあに?(7言語)
シリーズ3:母子訪問について(7言語)
外国人住民の妊娠から子育てを支えるガイドブック~母子保健・子育て支援でできる多文化共生の4つのカギ
Webサイト:外国人住民の妊娠から子育てを支えるガイドブック【立ち読み版】
ガイドブック、ナンディ・ソッカさんが表紙。
「なんで?」を「そっか!」に変えたいという思いから。
- 支援者向けの研修の蓄積
- ガイドブックでより多くの母子保険・子育て支援関係者へ届ける
多言語ナビかながわ
Webサイト:多言語ナビかながわ
PDF: http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2019/07/2019navi_A4_web.pdf
- 多言語での対応が可能
- 支援者も活用できる
- 外国人が自分のわかる言葉で相談できる
INFO KANAGAWA いんふぉかながわ
Webサイト:INFO KANAGAWA いんふぉかながわ
PDF: http://www.kifjp.org/wp/wp-content/uploads/2014/02/A4_download.pdf
かながわ国際交流財団が今年度に取り組みたいこと
- 情報共有の場をつくる
- 母子保健・子育て支援の現場・研究者・今後を担う方々が一堂に会する
- どのように連携する事ができるか考える
- 県内モデル事業の実施
- かながわから全国へ発信
外国人住民が日本で出産し子育てすること
鈴木ミリアムさん(フィリピン出身/多言語支援センターかながわ・MICかながわ医療通訳)
ダン・グエン・トウ・ビエンさん(ベトナム出身/大和市国際化協会ベトナム語通訳)
ラクシャ・アリヤルさん(ネパール出身/未就学児保護者)
ミリアム
フィリピンでは、定期的に病院に通うことはなく、行こうと思ったときに行く。また、どの病院に行くかもそのときに自由に選んで行く。
日本は決まった病院に定期的に通うことを知らず、お腹が大きくなってから始めていくと、「なんでこんなになるまで来なかったの?」と断られたりもした。
ビエン
日本語がわからなくて病院に断られて相談してくることがある。
ラクシャ
(母子手帳のようなものはネパールにあるかと聞かれ)
ありません。母と子の両方の記録をとるものはネパールにない。
なぜ母子手帳をとりに役所に行かなければならないのか、と思った。
ビエン
ベトナムも妊婦健診は任意なので、行きたいときに行ってエコーをする。
ベトナムでは「妊婦は2倍食べなさい」などと言われるが、それゆえに糖尿病になる妊婦の相談を受けることもある。
ミリアム
自分の時は夫に全て通訳してもらっていた。
ある夜、シーツが濡れていて、尿もれだと思って恥ずかしいから隠していた。
その後、陣痛が来て病院に行ったら羊水が少なくなっていたことを知った。
病院では、看護師さんたちが「あの人は日本語がわからないから説明はしなくていいよ」と話していたのを知った。日本語がわからなくても説明はしてほしいと思った。
ビエン
ベトナム人ママは、行政の人が急に家に来ることを知らないので、突然ピンポンと来られるとびっくりする。
ラクシャ
私も家庭訪問はびっくりした。ネパールにもないので。
そのとき来た助産師さんは、予防接種の予約はした?と聞いてくださり、まだしてなかったので、じゃあやってあげると近所のクリニックに電話で予約をしてくれた。感謝しています。
ミリアム
産後検診の通訳に行った時、お母さんが出産届を出生証明書と勘違いしてずっと大切に保管していたことが分かった。
フィリピンでは病院が出生届を出してくれるが、日本では自分で役所に出さなければならない。そのことを知らなかった。
フィリピンでは哺乳瓶にオレンジジュースを入れたり、コーラを入れたりする人も。笑
それでフィリピンの子はとても虫歯が多い。
ビエン
保育園の書類はどこでもらって、いつ出すのか。そういうことを知らないのでサービスを使うことを諦めてしまうこともある。
ラクシャ
未就園児とママたちの子育てサークル「ピッコロ」に参加したら、そこの方が「保土ケ谷地区地域子育て支援拠点こっころ」にいっしょに行ってくれた。
保育園に娘を入れたいと思ったが、時期を逃してしまっていた。そこで一時預りを利用しようと思ったが、保育園に直接申し込みをしなければならず、やり方が分からなかった。
支援を受けて面接までこぎつけることができたが、一つの保育園では「外国人だから申し込みはできません」と言われて断られてしまったこともあった。
KIF(かながわ国際交流財団)のチャートはとても良くまとまっていて、役立つと思った。
窓口などにいっても標準の日本語を使われるとにほんご初学者の私にとっては難しかった。やさしい日本語を使ってほしいと思っている。
ビエン
役所窓口の方は「また日本語のわかる友だちか誰かといっしょに来て」と帰してしまうのではなく、たとえば多言語ナビのような通訳システムを使うなど、その場で解決ができる可能性もある。
帰してしまうのではなく、そのようにしてみてほしい。
ミリアム
ワンストップセンターや行政の通訳システムなどがあるので、それにつないでもらえると、言葉が通じて、外国人の方々はとても安心すると思う。
外国人子育ての現場から
大和市立病院・産婦人科
藤井律子さん(助産師)
佐藤琴美さん(助産師)
外国人妊産婦
- 年間700件のお産のうちの11%が外国籍(ベトナム、ペルー、中国、フィリピン、ネパールなど)
- そのうち4割がベトナム人
- ベトナム人妊婦の多くが、来日年数が浅く言葉や文化の理解不足を感じる
- ベトナム語とスペイン語の通訳が週2回常駐している
ベトナム人妊婦教室
通訳をとおしながら、両親学級などをやさしい日本語でも伝えながら実施している。
和やかな雰囲気で、ロールプレイなどもしながら進めている。
「陣痛きたら自転車で病院いくね」などというお母さんもいたり(笑)、リアルな声を聞けてありがたい。
言葉だけで通じないことも、実際の分娩台などを使いながら伝えるようにしている。
自治体母子保健
岩田眞美さん(横浜市こども青少年局 医務監)
川上千鶴さん(横浜市中区役所 助産師)
横浜市は外国籍者が10万人を超え、中国・韓国・フィリピンに加え、ベトナム、ネパールの人も増えてきた。
わかりやすい日本語でお知らせや広報をすることを職員みんなで勉強して取り組もうとしている。
助産師は、女性のためだけでなく、家族及び地域に対しても健康に関する相談と教育に携わる。
『外国人住民の妊娠から子育てを支えるガイドブック』P18-19
川上さんがアドバイザーになったパート。
たとえば「またね」という言葉を大事にしている。それを言うと「次もあるんだな」と思ってもらえるから。
また、ネパールでは赤ちゃんにベタベタしたオイルを使ってびっくりする。でもそれは水の少ないネパールならではの習慣。
つぎの家庭にいくとき、それをネタ帳に書いておいて、「オイルつかってる?」などと話す。
スマホに通訳アプリを入れているし、自治体によってはポケトークを導入してくれているところも。
イラストではボーダーを着ているが、「私はいつもボーダーを着ているから、それを探してね」と伝えるようにしている。笑
市役所 管理栄養士
齊藤みささん(管理栄養士/綾瀬市役所健康づくり推進課)
スリランカ出身の方々で、綾瀬市在住者はムスリムが多い。
保育園で給食が食べられない子は、親が同じような見た目になるようにハラールの食事を作って持たせてくれている。
虫歯が多く、苦手な野菜が多い。
4−5歳でも哺乳瓶を使っているケースも。
男女の役割があり、対外コミュニケーションは父親がとる。
ワークショップ開催の際には、SNSで呼びかけ、女性限定にしたことで、多数の参加を得られた。
ハラールのきんぴらや味噌汁の試食はとても好評だった。
女性限定のムスリム向け日本語教室も行い、ムスリマの出会いの場となった。
地域子育て支援拠点(横浜市神奈川区・西区)
藤村メイ子さん(横浜市子育てパートナー)
中山久美子さん(拠点職員)
ネパールが特に増えており、レストラン関係者が多い。
同郷、同業者でかたまって住む傾向がある。
『ガイドブック』P5
理想と現実の乖離を埋めることが課題。
その解決のためには、ネットワークづくりしかない。
『ガイドブック』P30
外国人にアウトリーチ ネパールママ編
『保健行政窓口のための外国人対応の手引き(第1版)』
渡邊洋子さん(東京都多摩立川保健所長、全国保健所長会グローバルヘルス研究班/小児科医・行政医官)
PDF:http://www.phcd.jp/02/t_gaikoku/pdf/tmp01.pdf
在留資格が切れた方が保健所を必要とするケースもあるが、人権優位であることを確認したい。
入管への通告義務はある。しかし、母子の健康、人権が優位である。
母子手帳と母語による子育て
鈴木庸子さん(国際基督教大学講師/バイリンガル・マルチリンガル子どもネット事務局)
母子保健の分野と教育の分野の連携が今はまだとれていない。
母語で育てる大切さをどう伝えるか。
その一つとして、母子手帳に「どうぞ、お母さん自身の言葉で育てて下さい」ということを書いていただけたらと思う。