「同じ命や。理由がないといかんですかね?」奥田知志さん(NPO法人抱樸 理事長・牧師)

 

奥田知志さんについて。

生まれは大津市。大手企業のサラリーマン家庭に育ち、中学2年でキリスト教の洗礼を受けた。だが関西学院大1年の時に大阪・釜ケ崎を訪れ、信仰心は揺らぐ。酒と排泄(はいせつ)物の臭いに満ちた日雇い労働者の街に、名前も年齢も知れぬ遺体が転がっていた。

 

神は一体どこにおる!

 

私も奥田さんと同じ大学に通い、キリスト教を知って洗礼を受けたのも同じ10代の頃だった。そしてまた同じように、大学1年のころ釜ヶ崎に出会った。遺体ではなかったけれど、路上に寝ころがる人々の足をまたいで街を歩き回った。何とかしたいと思って夜回りに参加し、アオカンする一人ひとりに毛布をかけて歩いた。しかし、ある時、自分の毛布をかけた人が翌日その場で亡くなった。

 

「夜回りをして何になる」

 

自問自答を繰り返した。そんな折、教会に行くと、1,000万円のオルガンを購入するかどうかの会議が開かれていた。信徒の意見が割れ、最後は投票をすることになった。私は反対に投じた。神がどこにいるか分からなかった。

 

しかし、教会を、キリスト教を否定するのではなく、むしろ「それでも教会にできることは何か」を確かめたくなった。そして、大学を出てから9年、教会組織に属して働いた。

 

 

最初の10年、路上死が出るたびに怒り狂った。「殺人行政」と書いたプラカードを掲げ、役所に押しかけもした。次の10年は市と協働するようになったが、ホームレス問題にのめり込む牧師のあり方を巡って教会は分裂。

 

私は「最初の10年」近くを経た今、教会から出ることに決めた。奥田さんの歩んだ道とは幾分異なるし、同じ道を辿っているとも到底言えないが、しかし常に背中を追いかけさせてくださる存在だと思う。

 

 

なぜ、そこまでやるのか。そう問うと、鋭い目で聞き返された。「同(おんな)じ命や。理由がないといかんですかね?」

 

何千回も繰り返し問われてきたからだろう。そして自分自身でも問うてきたからかもしれない。つまづいた時もくじけた時も限りなくあっただろうに、それを乗り越えて辿り着いた言葉はこの上なく重い。

 

 

地元中学で不登校になった長男の愛基(あき)さん(後に学生団体「SEALDs〈シールズ〉」創設メンバー)は、単身離島へ。

 

息子が死を選びかけた時にも、おそらく「おれは身近な家族を犠牲にしてまで他人の幸せを実現しようとしている。なんと愚かなことか」という考えに至ったことは想像にかたくない。にもかかわらず、父はまわりの人間に自分の弱さをさらして「助けてほしい」と頼みつつ活動を続け、生き延びた息子はその後に始めた平和に向けた行動を通して万人の心を動かし得る人間になった。

 

その時のエピソードを交えた茂木健一郎さんとの対談の収められた本。この二人は、NHKの番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』で出会っている。まだ「助けて」と言ったら必ず何とかなる国とは言い難いと思うが、そこに向けて人と社会をつなぐ働きをしようという思想を知ることができる。

 

「助けて」と言える国へ ──人と社会をつなぐ (集英社新書)

「助けて」と言える国へ ──人と社会をつなぐ (集英社新書)

  • 作者:奥田 知志,茂木 健一郎
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2013-08-21

 

(NPOは)現在スタッフ100人以上を抱え、7割が正規職員。行政からの委託を含む年間事業費は5億円ですが、伴走型支援にかかる2千万円以上は寄付金頼みで、決算は赤字です。

 

こうした団体にぜひ寄付が集まってほしいと願う。しかし、webからのクレジット決済等ができる仕組みはサイトを見る限り無い様子。ゆうちょ銀行などを通して入金する必要はあるようだが、支えたいという方はぜひ。

 

NPO法人 抱樸 会員募集

 

今後数年で、こうした志ある団体に寄付が集まりやすくなる仕組みが次々と整っていくはずだ。それが「助けて」と声なき声をあげる人の同じ命を救うことに繋がるよう願う。