人の心を動かすパブリック・スピーキングとは – カナダの英語学校で学んだ知識とスキル

カナダの語学学校で、4週間にわたる「Public Speaking」の授業を受けました。

「人前でプレゼンテーションをすること」という意味のパブリック・スピーキング。それをうまく用いて聴衆の共感を得る方法やコツを、英語学習の一貫として身につける授業です。

ここで、その内容を詳しくご紹介したいと思います。

 

 

プレゼンは、多くの日本人(アジア人)にとって苦手意識が強いスキルだと思います。それをましてや英語でこなすなんて・・。

しかしそれがもしうまく出来れば、世界中の人と自分の思いを分かち合うことができますよね。それは素晴らしい体験になると思います。

ぼくもそうなる日を夢見て、この授業をとりました。

 

“I Have a Dream”

初日に見せてもらったのは、マーティン・ルーサー・キング牧師のこのスピーチでした。

 

 

なぜ、このスピーチは25万もの人を熱狂させ、アメリカの歴史を塗り替える力まで持ったのか。

 

それは、彼自信が〈信じていること〉を語ったからです。

「私には夢がある」と。

「私にはプランがある」ではなかった。

 

パブリック・スピーキングの先生が語られたこの話は、以下のTEDから引用したものだったと思います。

 

視聴回数3,000万回を超える(歴代3位)人気のTEDトークですので、よければご覧になってみてください。

 

 

全部を視聴するお時間のない方のために、書き起こしも一部引用しておきます。

 

 

01:18

 

(略)

偉大で人を動かす 指導者や組織は全て アップルでも マーチン ルーサー キングでも ライト兄弟でも 考え 行動し 伝える仕方が まったく同じなのです

そしてそのやり方は 他の人達とは正反対なのです

私はそれを定式化しました

世界でもっとも単純なアイデアかも しれません

私はこれをゴールデンサークルと呼んでいます

 

 

02:08

 

なぜ? どうやって? 何を?

この小さなアイデアで ある組織やリーダーが なぜ 他にはない力を得るのか説明できます

(略)

「なぜやっているのか」がわかっている人や組織は 非常に少ないのです

「利益」は「なぜ」の答えではありません

それは結果です

いつでも結果です

「なぜ」というときには 目的を問うています

何のために? 何を信じているのか? その組織の存在する理由は何か? 何のために朝起きるのか? なぜそれが大事なのか?

実際のところ私達が考え 行動し 伝えるやり方は 外から中へです

それはそうでしょう

明確なものから曖昧なものへ向かうのです

でも飛び抜けたリーダーや 飛び抜けた組織は その大きさや業界にかかわらず 考え 行動し 伝える時に 中から外へと向かいます

 

 

15:12

 

今度は イノベーションの普及の法則が うまく行った例を見てみましょう

1963 年の夏のこと 25万人もの人が集まって ワシントンの通りを埋め尽くし キング師の演説に耳を傾けました

招待状が送られたわけではなく 日にちを告知するウェブサイトもなく どうやったのでしょう

キング師だけが偉大な 演説家というわけではありませんでした

市民権運動以前のアメリカで彼だけが 苦しんでいたわけではありませんでした

実際 彼のアイデアのなかにはひどいものもありました

でも彼には才能がありました

彼はアメリカを変えるために何が必要かなどを説かず 彼は自分が信じることを語ったのです

「私は信じている 信じている 信じている」 と語りました

彼が信じることを信じた人々が 彼の動機を自らの動機とし 他の人にも伝えたのです

さらに多くの人々に伝えるため 組織を作った人もいました

そして なんとまぁ 25万人が集まったのです

その日 その時に 彼の話を聴くために

 

 

16:17

 

その中でキング師のために集まった人は何人いたでしょう

ゼロです

みんな自分自身のために集まったのです

彼ら自身がアメリカに対して信じることのために 8時間バスに揺られてやってきて 8月のワシントンの炎天の下に集まったのです

自分が信じることのためです

白人と黒人の対立ではありません

聴衆の 25 パーセントは 白人だったのです

(略)

人々がついて行ったのは彼のためではなく自分自身のためでした

その中で 「私には夢がある」という演説をしたのです

「私にはプランがある」という演説ではありません(笑)

 

力のあるスピーチをするためには、「Why」を語ること。つまり、「信じている夢」を語ることが大切なのだということです。

(夢のある原稿を書く方法は、記事の後半でご紹介します。)

良いスピーカー、残念なスピーカー

 

しかし「信じている夢」を語れば何でも人の心を動かせるかと言えば、もちろんそんなことはありません。「話し方」も重要な要素の一つです。

 

ということで、良いスピーカー・残念なスピーカーのそれぞれの特徴を列挙したプリントをもらいました。

 

 

以下に日本語訳をして書き起こしておきます。

良いパブリック・スピーカーの条件

  • 自信
  • 強い、明瞭な声
  • 会衆とまんべんなく目を合わせる良いアイ・コンタクト
  • 構成:分かりやすい導入、本論、結論
  • 良いあらすじ
  • 良いスピード – 間をとること
  • 反応を得るために質問を投げかける
  • ユーモアを使う
  • 言葉の繰り返し(意図したもの)
  • 分かりやすい、シンプルな言葉

残念なパブリック・スピーカーの条件

  • 緊張している
  • 優しい・弱い・低い声
  • アイ・コンタクトがない:紙・床・天井・窓の外などを見る
  • 構成がない
  • 声・手・足が震えている
  • ど忘れ:あらすじがない
  • 髪の毛・ペン・原稿・マーカー・服などをいじる
  • 何度も顔を触る(掻く)
  • 唇・指・爪などを噛む
  • 顔を赤らめる、汗をかく
  • ふらふらする、足を動かす
  • うーん、あー、みたいな、えー、それから・・・
  • ツバをすする
  • 笑う(照れ隠し)
  • 無表情:ロボットみたいに原稿を読む
  • 原稿に頼る:読むだけ
  • 言葉の繰り返し(意図しないもの)
  • ふさわしくない話題

 

緊張をほぐす方法

上記の条件を見ると、「生理現象だからどうにもできないよ」と思えるものも・・・。

しかし、緊張などから来る身体の反応も、工夫すればいくらか抑えることができます。

 

深呼吸

シンプルすぎますが、やはりこれは重要。

5秒で吸って、5秒かけて吐きます。できれば腹式呼吸で。

息を吐くとき、「自分は樹だ」と想像して、根から地中に送り込むようなつもりで息を吐くと良い、と教わりました。

 

アイ・コンタクトの練習をしておく

見られていることが恥ずかしくて聴衆と目を合わせられない、ということは多々あるでしょう。

それどころか普段から、人と目を合わせることは5秒と言わず、3秒でも難しいという人も少なくないかと思います。

そんな状態のまま人前に立って聴衆と目を合わそうと思っても・・うまくいくはずないですよね。

 

そこで、ぼくたちは授業で、初めて会ったクラスメイトと「手を取り合って10秒間目を見つめ合う」、という練習をしました。笑ったり、目をそらしたら、先生からすぐ厳しいやり直しの命令がくだされます。そして、できるまで続ける。

これ、苦手な人は苦手なんですよね・・。ぼくはそれほどでもないですが、その時に組んだパートナーのメキシコ人の女の子は、ぼくの顔をみて何度か笑ってやり直しになりました・・・。っていうか、そんなおもしろいですか、ぼくの顔。

 

しかし、そんな「苦行」を重ねていくと、意外とすぐ人と目を合わすことが苦ではなくなってきます。

先生曰く、「なぜかって、それはこの世の中の99%の人間は信頼するに足る人だからよ。」

例え、ぼくみたいに顔を見て笑われても、何度か繰り返すうちに10秒間見つめ合うことができるようになれば、確かに相手との信頼関係は築かれていって、目をわせることが苦ではなくなっていったことが実感できました。

 

原稿は覚え、鏡の前で何度も練習する

スピーチの長さにもよりますが、基本的には原稿を全部暗記します。

そして、鏡やスマホのインカメラで自分の話す姿を見ながら、自分と目を合わせつつスピーチの練習を何度も繰り返します。

特にスマホのインカメラ(自撮り用の画面側に付いているカメラ)で動画の撮影もして、あとで自分で見てみるのもオススメです。

話している時の自分がいかに挙動不審かが、恥ずかしいくらいよく分かります。(笑)

それをもとに何度も修正を繰り返しながら、少しずつ良い表情でのスピーチに近づけていくという地道な作業をします。

 

ちなみに上記でも触れたアメリカの「TEDカンファレンス」では、1年も前から準備が開始されるとのこと。スピーチ時間は、たったの18分ほど。

それに1年もかけて話の構成や言葉やジェスチャーなどを綿密に改善していって、ようやくできあがるのが、ああいった人の心を動かすスピーチなのだそうです。

 

机や原稿台に手をつく

とは言え、どんなに練習を重ねても本番は緊張するもの。手足はガクガクします。

そんな時、ダメな行動かなと思いきや、意外と先生から勧められたのが、机や原稿を載せる台に手をついて話すこと。

手足の震えは、安定した固いものにつかまっていると、いくらか抑えられるからです。

 

ど忘れしたら原稿を見る

スピーチは暗唱のテストではありません。

本番の時には原稿は持っていって、「ど忘れ」したら、堂々と間を空けつつ、原稿を確認したら良いのです。

覚えたものを忘れず話すことに力を入れすぎると、緊張は増します。「忘れたら原稿見ればいいや」という気楽さが大事。

さらに言えば、暗記したものを無理に思い出そうとすると、どうしても部屋の右上隅の天井あたりを見てしまう人が多くなる。(笑) それでは説得力が損なわれてしまいます。原稿を見てでも堂々と話している方が、よほど力強く聞こえます。

 

スピーチ終了後に自分で拍手しない

スピーチがしっかりできて大きな拍手をもらった時、緊張がとけてほっとした気持ちも手伝ってか自分で自分に拍手してしまうこともあるかもしれませんが、それは避けたほうが無難です。

むしろ、拍手に対しては「ありがとうございます」と会釈しているくらいの方が堂々としていて良いそうです。

 

夢のある原稿を書く方法

「夢」と言っても、お金持ちになって家買って・・などという話ではありません。 では何か?

それは「何を感じたいか」です。「何をやりたいか」ではなく。

「何を感じたいか」はWhy(なぜそれをするのか)の核心にあるものです。Purpose(目的)と言い換えることもできるでしょう。

一方、「何をやりたいか」はWhatやHowであって、目的を達するための手段にすぎません。

 

「最も欲している感情」を書き出す

ぼくたちは授業で「最も欲している感情(Core Desired Feelings)」をできるだけたくさん列挙してみる、ということをしました。

もう少し噛み砕いて言えば、「心の一番奥底にある、自分が人生をとおして最も感じたい気持ち」は何か、ということです。

 

喜び、わくわく、自由、愛情、雲一つない青空、貧しさのなかにある子どもと笑顔を分かち合えたときの気持ち・・・。

 

一言の言葉で言い表してもいいですし、ちょっとしたイメージや文章で表現しても構いません。

 

その気持ちを感じるための「達成・経験」を書き出す

では、どんな達成や経験をすれば、その気持を感じることができるのか?

それを列挙してみます。

ただし、悩む必要はありません。テストではないので。あとで書き換えても全く構いません。まず書き出してみましょう。

 

世界中を旅してまわる、

ハワイでフルマラソンを完走する、

毎朝海辺で朝日や夕日を見ながらランニングする、

自分の組織をつくって苦しむ子どもたちと出会って生きている喜びを分かち合う、

その夢を世界中の人たちに英語でスピーチして共感を得て活動を共にする・・・

 

原稿の構成

以上を書き出すことができたら、それらを原稿に落とし込んでいきます。

原稿の構成は基本的に以下のフォームに当てはめます。

 

 

  • A. 導入

テーマ(私の一番大きな夢)、豊かな表現で。

 

  • B. 本論
  1. あなたの夢は何?それはどこで叶う?そしてどんな気持ちになる?
  2. なぜ?その夢はどんな目的を果たしてくれる? 夢を叶えるとあなたの人生は、世界は、どう変わる?
  3. その夢を叶えるためには、どんな段階を経る必要がある?

 

  • C. 結論

「1.2.3.によって、私は夢を叶え、そしてそれは世界をより良い場所へと変える一助となるでしょう。」

 

 

なお、プレゼンやスピーチのテーマによって内容は多様な形をとるでしょうが、今回ぼくたちが授業で課せられたテーマはズバリ「私の一番大きな夢」だったので、上記のようなフォームに当てはめていきました。

 

原稿の一例

原稿の具体例として、ぼくが授業で発表したときのものをご紹介します。

 

 

【英語版】

 

Today, I’m going to talk about my dream.

 

Introduction

Please imagine pain of children suffering from poverty and loneliness.

One day, my co-workers and I will take them away from the children, and share joy together.

This is my dream.

 

1)

It is going to take place all over the world, for example

in a corner of a dark house in Japan,

or at the bottom of a mountain of garbage in Manila, the Philippines,

or on a street by the Ganges River in India.

I’m going to be filled with excitement to share joy together.

Then, I will leave to the next field when my tears of joy dried.

It’s going to be in South Sudan, or Haiti, maybe.

 

2)

Joy can produce synergy when it’s shared with others.

It makes happiness for the children shedding tears, their allies, and also myself.

Do you believe that shared joy is a double joy?

I do believe it.

 

3)

To achieve my dream, first of all, I’m going to share my dream with the people who are around me so that I can connect with the people who feel guilt about children’s pain.

Then, we will establish an organization, and promote our actions as fast as, as honestly as possible.

 

Conclusion

I will do it to share joy with my co-workers and the children all over the world, so that my dream will come true and it’s going to make the world a better place.

 

 

【日本語訳】

 

これから、私の夢についてお話します。

 

導入

想像してみてください。貧困や孤独の苦しみの中にある子どもたちの痛みを。

いつの日か、私は仲間たちとともにその痛みを子どもたちから取り去り、そしてその喜びを共に分かち合うのです。これが私の夢です。

 

本論

1)

世界中の至る所で、それを実現します。

例えば日本の暗い家の片隅で、あるいはフィリピン・マニラのゴミ山のふもとで、あるいはインド・ガンジス川のほとりの街角で。

きっと私はそこで喜びを分かち合うことができて心底わくわくしているでしょう。

そしてその喜びの涙が乾いたら、また新たな場へと出かけるのです。

次は南スーダンかもしれないし、ハイチかもしれません。

 

2)

喜びは、人と分かち合うことにより相乗効果がもたらされます。

それは涙を流す子どもたちに、私の仲間たちに、そして私自身に幸せをもたらしてくれます。

「喜びは分かち合えば2倍になる」という言葉を、あなたは信じますか?

私は信じています。

 

3)

この夢を叶えるため、はじめに、この夢を人に話して、分かち合います。そうすることで、子どもたちの痛みに後ろめたさを感じてきた人たちとのつながりを作ることができるからです。

それから、組織を創ります。そして、できるだけ速く、できるだけ実直に、働きを進めていくのです。

 

結論

その行いをとおして、私は世界中の仲間たちや子どもたちとともに喜びを分かち合います。

そうすれば私の夢は叶い、そしてこの世界はきっと今よりも良い場所になっていることでしょう。

 

 

まとめ

日本人にとって、人前で話すこと、しかも英語でそれをすることはもちろん簡単なことではないでしょう。

でも、もし自分の思っていることを世界中の人に伝えられたら、そしてそれに共感してもらえて、世界が一歩でもいい方向に動いていったら・・。そんな素晴らしいことはないと思います。

 

ぼくもまだ学び始めたばかりですが、できるだけ多くの場数を踏んで、より良いプレゼンができるようになりたいと思っています。