バンクーバー ダウンタウン・イーストサイド 〈1日目〉
バンクーバーは、夏は過ごしやすく、冬も比較的温暖な気候が続くため、カナダ全国から多くの路上生活者が集まってくるそうです。
中でも、かつて日本人街として栄えたダウンタウン・イーストサイドは、現在、生活保護受給者や精神病罹患者が多く暮らす地域となっています。
公園の周囲には精神病患者のための施設が集まっていることもその一因であり、また周辺の住居賃借料が異常に高騰し、住処をなくした人が路上に追い出されるケースも少なくないとのことでした。
路上訪問支援担当のマシュー司祭に案内され、人々が集まるオッペンハイマー公園を歩いていると、アルコールのにおいのする人が話しかけてきました。
マシュー司祭は、勢いよくしゃべるその方の話に丁寧に耳を傾けていました。彼の手を見せてもらうと、司祭が「典型的な労働者の手」と教えてくださったように、指先や爪がとても大きく固くなっていました。
かつて力仕事に従事し続けていたことを示しているのだと思います。
次に、中米出身と思しき女性が話しかけてきました。最近、この近所で3人の方が亡くなったことを司祭に告げたようでした。
また、レストラン前で出会った方は、かつて中米の国で兵士として勤めていたとのこと。極右政権下にあって、反政府市民の政治的殺害が横行していた時代だったこともあり、非常に過酷な人生を送ってきた方なのだ、とのことでした。
こうした過去を持つ移民がこのコミュニティには少なくないようです。
マシュー司祭は、出会った一人ひとりの話と、相手の名前や近況をメモにとっていました。
彼はほぼ毎日この働き(昼回り)を続けているとのことです。日本の野宿者支援活動とほとんど同じ働きのように感じられました。
しかし、持参した救急セットに2種類の防犯ベルを入れていたことが印象的でした。
日本の夜回りなどで、そこまでしたことはありません。もしもの備えなのでしょうが、その備えが必要なだけのリスクがあるということを意味するのだとも思います。
司祭は、人々と話を終える間際、周囲の目に触れないように朝食券やたばこを数本わたします。
食事はランチであれば10ドル(1,000円)近くはかかり、たばこも1箱8ドルほどする物価の高さでは、生活保護を受けていても、やっていくのは非常に大変のようです。
この日は生活保護支給日の前日だったとのことで、多くの人がお腹を空かせているはず、と仰っていました。
生活保護の額は、家賃などを除けば、1日7ドル程度しか残らない計算で、それゆえ支給日前になると、みんなお腹を空かせるそうです。
7ドルで食事も薬も日用品も衣料品もすべて揃えなければならないというのは、かなり酷なことを強いていると感じます。
バンクーバー ダウンタウン・イーストサイド 〈2日目〉
月に一回の保護費支給日(Check day)で、多くの人が受け取りのため銀行などに列を作っていました。
出かける前、今日の外の状況が「昨日よりさらに厳しい」ということで、腕時計を外し、携帯を見えないようポケットに入れ、「とにかく人々の目を見てスマイル。ものを売り買いしている人の手元を見てはいけない」と注意を受けました。
この日、マシュー司祭が話しかけた人たちは、保護費を既に受け取っていたようで、
「朝ごはん、何食べました?」
「たまごとベーコンとトーストと・・・」
「いいねー!」
という会話がありました。この時を空腹に耐えながら待ちに待っていた人が多いことがよくわかりました。
その日おこなわれていた救世軍の炊き出しに、中国系の女性高齢者の方々が行列を作っていました。
郊外の豪邸に住んでいる人たちも中国系である一方で、炊き出しに並ぶ人たちも中国系と、かれらの貧富の差は特に激しいとの事でした。