社会変革者のリーダーシップを知る|マンデラ 自由への長い道 (Mandela: Long Walk to Freedom) レビュー

 

ネルソン・マンデラ(元・南アフリカ大統領)の生涯から、社会変革者のもつべきリーダーシップを知ることができる秀逸な映画。

 

 

 

 

理想のために生き、死ぬ覚悟ゆえに

若き日のマンデラは、南アフリカ政府の人種差別政策を変えさせるために、過激な活動に傾倒していきました。

 

出典:IMDb

 

持ち前のリーダーシップで人々を煽動していきますが、それは力によって権利と自由を「勝ち取る」方法でした。

 

その過激さゆえに罪に定められ、裁判にかけられます。

 

出典:IMDb

 

私は、この理想のために生き

実現に力を尽くす

だが、もし必要であるなら

この理想のために死ぬ覚悟はできている

出典:マンデラ 自由への長い道

 

出典:IMDb

 

しかしこの高すぎる理想と覚悟ゆえに、家庭での大切な時間を守ることができなくなっていきます。さらに自身の浮気もあって、家族と離別することに。それでも次の恋はすぐに見つかります。

 

マンデラは非の打ち所がない清いリーダーではなく、一人の人間に過ぎなかったことが描かれています。

 

一人で何ができる

しかし、裁判の結果、政治犯として27年にも及ぶ獄中生活を送ることに。

 

出典:IMDb

 

その長い時を経ても、彼の理想と覚悟は変わらぬままでした。しかし、リーダーシップのありようは変化を遂げていきます。

 

ある過激派の青年たちがマンデラに詰め寄った時、彼はこう語ります。

君はとても勇敢な青年のようだな

君も、君も。

だが一人で何ができる?

団結してこそ力を持てる

団結だ

君や私は殺されたり投獄されたりする

だが組織は継続する

永遠にな

出典:マンデラ 自由への長い道

たった一人になったとしても、死ぬ覚悟で闘う。その決意は崇高かもしれませんが、本当に望む変化を起こしたいならば、がむしゃらな行動だけでは何も生まれない。むしろ、事態を悪化させることもある。

 

マンデラは団結する意味を説きます。

 

しかし、「組織は継続する、永遠に」という言葉に私は引っかかりを覚えました。理念は継続したとしても、組織は時に人よりも簡単に消滅する。なぜ彼がこの言葉を選んだか分かりませんが、当時の南アフリカでは人の命が葉っぱが散るごとく喪われていたことから、組織の継続性が彼には「永遠」に感じられたのかもしれません。

 

いずれにせよ、一人で高い理想を掲げても何も成し遂げることはできないという教えは伝わってきます。

 

そして、その後マンデラの語る「団結」は、仲間内だけのものではなくなっていきました。仲間 vs 敵、黒人 vs 白人、ではなく、南アフリカ全国民で団結してこの国の未来を築くのだ、と。

 

納得させる、それがリーダーシップ

南アフリカ国内の内紛が悪化しているさなか、マンデラはついに獄中から釈放されます。アフリカ系市民による政党の党首となった彼はアフリカ系議員や市民から上がる声に、次のように答えます。

 

出典:IMDb

恐怖が消えるまで

少数派にも参加させる

(それでは民衆が納得しない、と言う者に対して)

では納得させる

それが指導者の役目だ

出典:マンデラ 自由への長い道

ここでいう「少数派」とは、ヨーロッパ系(白人)のこと。力の関係上はマジョリティでも、数としては少ないから少数派と言われています。一方、「民衆」はアフリカ系(黒人)市民たちのこと。つまりマンデラは、アフリカ系である自らが、アフリカ系の民衆を納得させ、ヨーロッパ系とともに南アフリカの未来を築こうという理想を掲げます。

 

街ではヨーロッパ系対アフリカ系の血で血を洗うような戦闘が続きます。ついには、意見の異なるアフリカ系市民同士の殺し合いにまで発展します。誰もが「我々は権利を勝ち取るのだ」と叫び、他者の命を奪い取る。その惨状を見たマンデラは、国営放送のテレビ番組に出演し、画面を通して国民に語りかけました。

ある人がこのメモを私にくれました

これを読もうと思います

 

「平和はいらない

平和交渉などするな

もうウンザリだ

お願いだマンデラ

平和は要らない

武器をくれ

平和は無用だ」

 

私の答えを言おう

我々の先にある道は、ただ1つ

それは、

平和だ

 

あなたがたが聞きたい答えではないだろう

しかし、それ以外に道はない

私は、あなた方の指導者だ

あなた方の指導者である限り

あなた方を導いていこう

あなた方の指導者である限り

あなた方が間違っている時は

それを指摘しよう

そして今あなた方は間違っている

 

私は闘争に人生を捧げてきた

死さえ厭わなかった

私は投獄によって

人生の27年間を失った

だがあなたがたに言おう

私は

彼らを赦した

私が彼らを赦せるなら

あなた方も彼らを赦せるはずだ

我々は戦闘には勝てない

だが

選挙に勝つことはできる

だから仲間たちよ

家で過ごそう

心穏やかに

そして投票日が来たら

票を投じよう

出典:マンデラ 自由への長い道

 

アフリカ系市民には一人一票さえ認められていなかった時代を終え、ついに誰もが同じように投票できる権利を得て、人々は歓喜の叫びを上げました。

 

出典:IMDb

 

指導者(リーダー)は、仲間たちが間違ったことを言えば改めさせ、ぶれない理想へと導く。たとえ仲間から背中に矢を放たれようと、前に進む姿を見せ続けるのがリーダーシップだと、マンデラは教えてくれます。

 

そうした彼の姿勢を見てきた国民は、彼を信じ、大統領に選出しました。

 

出典:IMDb

 

愛はずっと自然だ

映画の最後、マンデラの有名な言葉の語りで締めくくられます。

私は自由への長い道を歩んだ

それはとても孤独な道だった

まだ終わっていはいない

私には分かる 私の国は

憎しみのためにあるのではない

生まれながらに肌の色のせいで

他者を憎む者などいない

人は憎むことを覚える

ならば愛することを学べるはずだ

なぜなら愛というものは

人の心にとって

ずっと自然だから

出典:マンデラ 自由への長い道

彼の揺るぎない理想と、的確なリーダーシップによって、南アフリカは人種差別をひとまず過去のものとすることができました。

 

しかし、2013年のマンデラ没後から現在に至るまで、国が完全に平和を維持できているといえる状況にはありません。

 

マンデラのようにリーダーシップを発揮できる指導者が、今も求められ続けています。

 

 

 

以上、『マンデラ 自由への長い道』における社会変革者ネルソン・マンデラのリーダーシップについての、一考察でした。この作品は、同じくマンデラを題材にした『インビクタス 負けざる者たち (Invictus) 』とともに、彼のリーダーシップを知るための映画として優れた作品と言えるのではないかと思います。