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国際子ども学校(ELCC)とは
国際子ども学校は、日本で唯一といわれる「フィリピン学校」です。言語や制度の壁にはばまれて既存の学校に行くことができない在日フィリピン人の子どものための学校として、1998年に設立されました。
(英語名:Ecumenical Learning Center for Children、以下ELCC。フィリピン学校はフィリピン人学校ともいわれる。)
学校のウェブサイトには、以下のように書かれています。
名古屋市内の繁華街にある公園で、深夜に遊んでいるフィリピン人の子どもたちに出会ったのが(設立の)きっかけでした。
・・・当時、移住労働者の多くが超過滞在または滞在資格のない状態で長期間日本に住んでいました。そのような親を持つ子どもたちは、日本で生まれても公機関への届け出ができず無国籍状態にありました。そのため、公教育を受けることができず、ほとんどの時間を家庭の中で過ごすしかありませんでした。
このように、設立当初はいわゆるオーバーステイの子どもたちのための学校でした。
しかし今は、オーバーステイや無国籍の子はおらず、むしろ言葉の壁によって学校に行きづらい子や、来日間もないため日本語がまだ十分にできない子、そして幼稚園・保育園に入園を断られた幼児などが通ってきています。
ぼくは足かけ9年ほどその学校に勤めましたが、先日ひさしぶりに訪問して、子どもたちに会ってきました。
いまのELCCと在日フィリピン人児童の就学状況
現在は、3〜5歳児が10〜15人、小中学生が5〜10人、合わせて20人弱が入れ替わり立ち替わり通ってきています。
教頭によると、入学の見学や問い合わせはかなりたくさんあるそうです。ただ、都合が合わなかったりそれ以降連絡がなかったりして、入学に至らないケースも相当数あるとのこと。
ぼくが勤めはじめた2008年からおよそ10年のあいだ、この状況はあまり変わっていません。
子どもをどこに通わせようか迷っている親がいる。地元の学校・幼保園になじめたり、このELCCにうまく都合があって通えればまだいい。でもそうではない子どもたちもかなりの数がいる。
不就学(どこの学校にも通っていないこと)、不就園(どこの幼保園にも通っていないこと)を余儀なくされる子どもたちは、おそらくまだたくさんいるということです。
「おそらく」と書いたのは、その数は行政すら把握できていないからです。誰も知りません。
誰にも知られないまま、友だちや先生と出会ったり、勉強したり遊んだりする機会を守られていない子どもたちが、ぼくたちのすぐそばに今もたくさんいます。
それが在日フィリピン人児童のおかれた現状です。
今後のELCCの役割と課題
ELCC設立20周年にあたり、今夏、フォーラムが開かれました。そこで、以下のような会話が交わされたそうです。
小島祥美さん(愛知淑徳大学 准教授)
今後の役割は学童保育のような場所ではないかと思います。就学前の子どもたちと学齢期の子どもたちが一緒に学ぶ場、遊ぶ場として、フィリピンの言葉や文化を学べる場、いろんな価値観を認める多様性を学べる場、また子どもたちのアイデンティティーを育てる場としても、地域の中で役割を果たせるのではないでしょうか。
池住圭さん(ELCC創立者)
今、人の移動が地球規模で起こっています。これには民族、国籍、宗教、文化、言語、そして人権が伴います。これらの要素を持った人が移動するというところに、私はELCCの保護者と子どもたちを位置づけたいと思います。
小島さんがおっしゃったアイデンティティーはすごく大事なことです。両親や祖父母につながる、子どもたちがここで生きているルーツを大事にしながら、多様な豊かな世界にするには、その架け橋になることもELCCの一つの働きではないかと思います。ELCCの存在によって地域を変える、行政を変えることをもう少し強められたらいいなと思います。
引用:『クムスタ・カ・・・』(「国際子ども学校を支援する会」ニュースレター、第69号、2018年10月発行)より
小島准教授のおっしゃっるとおりだと思います。学校を補完する場、家や学校と異なる第3の居場所としての役割を果たすこともできるかと思います。そのような場があることによって、子どもたちは自らのアイデンティティーを一歩ずつ涵養していくのだと思います。
同時に、池住さんのおっしゃるように、ELCCはその存在そのものが、社会をより多様性に富んだ豊かなものに変える力を持っているのでしょう。そして同じく、ELCCを巣立っていく子どもたち一人ひとりもまた、その力を秘めているはずです。
外国人児童の教育は、単なる社会的コストとみなすべきではない。
むしろ、より豊かな未来へ向けた投資と理解すべきだ。
ぼくはそう思います。
先日、小島准教授がテレビのインタビューで次のように語られていました。
“公的な学校”に通っていない子どもは、1万人と推計される。
すべての子どもの選択肢として、
- 日本の学校にも通える
- 外国人学校にも通える
そういう選択肢の幅を持たせる必要がある。
「選べる」「選択肢がある」ということは、豊かさを育む礎になるでしょう。
そして、豊かな教育、豊かな未来を築く教育は、すなわち子どもやその家族が大事にしたいことに基づいて「選ぶことができる」教育なのだろうと思います。
もっと深く知るために
ELCCのこと、在日フィリピン人の子どものおかれた状況のことをもっと深く知っていただくために、以下の資料をおすすめします。
『日本の中の外国人学校』Kindle版 (月刊『イオ』編集部)
日本に住む外国人の存在が珍しくなくなった今、国際学校のニーズも高まっている。子どもたちが本国のアイデンティティを失わず、日本でスムーズに生活できるようにと作られた多様な学校現場を追い、彼らに対する教育政策の問題点を探ったルポルタージュ。
Amazonより抜粋
ELCCもこの本の中で紹介されています。
2003年、名古屋市教育委員会は「外国人登録のない子どもの就学を認める」という方針を出した。そして2005年4月、ELCCを「卒業」した5人の子どもたちが、名古屋市内の公立中学に入学した。
(上記書籍より抜粋)
「国際子ども学校を訪ねて」(月刊イオがおくる日刊編集後記 『日刊イオ』より)
「小学校に行ったら、授業中は立ち上がったり遊んだりしてはいけませんよ。(略)友達がものを落としたら、『どうぞ』と渡してあげるんですよ…」
優しく言い聞かせる先生の姿からは、子どもたちを送り出すことへの心もとなさと、どうかうまく日本の学校に馴染んで楽しく過ごせますようにとの切実な願いが伝わってきました。(上記サイトより抜粋)
『フィリピンルーツの子どもたちを支援する』(DiVE.tv)
フィリピン人ママをもつ子どもたちが通う学校「国際子ども学校(ELCC)」と、放課後スクール「トライシクル」の活動を通して考える『移民労働と教育問題』。
……なんだか難しそうだけど、まずは子どもたちの元気な姿をご覧あれ^^♪
まとめ
フィリピンにルーツをもつ子に限らず、今の日本には実に多様なバックグラウンドをもって生きている子どもたちがいます。
しかし、そのことはあまり知られていません。ましてや、あたりまえに守られなければならない教育を受ける権利さえ奪われている子もいます。
そのことをもっと多くの人に知っていただきたいとぼくは願っています。
もしよろしければ、この記事や、上で紹介した書籍・動画などをみて思ったことをSNS上でシェアしてください。
この社会的な課題がより多くの人に知られれば、いつかもっと大きなメディアで頻繁に取り上げられるようになり、有権者が関心をもつようになり、やがて国会や地方議会で話題にあがり、そうやって具体的に子どもたちの権利が守られる仕組みが社会に生まれるからです。
その第一歩として。
周りの人に知らせてください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
さらにもう一歩の「寄付」
もし、「もう一歩踏み込んで海外にルーツをもつ子どもたちを支えたい」とお考えの方がいらっしゃれば、以下の「寄付」をしていただくのも一つのアイデアかと思います。
海外から日本にやってくる家族は「移住労働者」が大半です。すなわち、本国ではお金が十分には稼げないから、海外に移り住んで働こうとする人たちです。したがって、多くの人たちが経済的に余裕のない状況におかれています。
そういった家庭の子どもたちにも学びの環境を保障するためには、寄付が重要な役割を果たします。
多くの人から寄付があれば、より多くの困窮家庭の子どもが勉強できるようになります。
寄付先1:ELCC 国際子ども学校を支援する会
(この記事でご紹介した名古屋のフィリピン学校です)
寄付先2:YSCグローバルスクール
(東京で海外ルーツの子どもの学習を支える団体です)
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そんな支えの一歩をぜひ、今日から。