南九州税理士会事件(最判昭8.3.19)|わかりやすい憲法判例|人権:人権の享有主体(法人の人権)

 

概要

強制加入団体である税理士会が政党に寄付することはできるか:できない

裁判要旨

一 税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為である。

二 政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は無効である。

理由

(四) そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である 税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範 囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮 が必要である。

税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定さ れた団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する 義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入 する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に 基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限 界がある。

特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙 における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政 治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきであ る。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、 特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をするこ とが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄 付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につな がる問題だからである。  法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制 度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができると しているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。

(五) そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一 一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がその ような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法 令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。

参照法条

民法43条, 税理士法(昭和55年法律第26号による改正前のもの)49条2項, 政治資金規正法3条, 憲法19条

裁判所サイト

要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55864

全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/864/055864_hanrei.pdf

ウィキペディア(Wikipedia

南九州税理士会事件

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E4%B9%9D%E5%B7%9E%E7%A8%8E%E7%90%86%E5%A3%AB%E4%BC%9A%E4%BA%8B%E4%BB%B6

『2019年版出る順行政書士 合格基本書』

p.15 憲法 3〈人権〉人権の享有主体