判示事項
- 28条の労働基本権(団結権等)の保障は公務員にも及ぶか:及ぶ
- 団結権等に制限を加えることは可能か:可能(必要やむを得ない限度で)
- 公務員の労働基本権を制約する国家公務員法98条5項、110条1項17号は憲法28条に反するか:反しない
理由
(一) 公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当 する政府により任命されるものであるが、憲法一五条の示すとおり、実質的には、 その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うもの である。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と 職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきで ある。
(三) 以上に説明したとおり、公務員の従事する職務には公共性がある一方、 法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代 償措置が講じられているのであるから、国公法九八条五項がかかる公務員の争議行 為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益 の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法二八条に違反するもの ではないといわなければならない。
二 次に、国公法一一〇条一項一七号は、公務員の争議行為による業務の停廃が広 く国民全体の共同利益に重大な障害をもたらす虞れのあることを考慮し、公務員た ると否とを問わず、何人であつてもかかる違法な争議行為の原動力または支柱とし ての役割を演じた場合については、そのことを理由として罰則を規定しているので ある。すなわち、前述のように、公務員の争議行為の禁止は、憲法に違反すること はないのであるから、何人であつても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等 の行為をする者は、違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議 参加者にくらべて社会的責任が重いのであり、また争議行為の開始ないしはその遂 行の原因を作るものであるから、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違 法な争議行為の防遏を図るため、その者に対しとくに処罰の必要性を認めて罰則を 設けることは、十分に合理性があるものということができる。したがつて、国公法一一〇条一項一七号は、憲法一八条、憲法二八条に違反するものとはとうてい考え ることができない。
参照法条
国家公務員法98条, 国家公務員法110条1項17号, 国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)98条5項, 国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)110条1項17号, 憲法18条, 憲法21条, 憲法28条, 憲法31条
裁判所サイト
要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50906
全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/906/050906_hanrei.pdf
ウィキペディア(Wikipedia)
『2019年版出る順行政書士 合格基本書』
p.16 憲法 4〈人権〉公務員の人権