2019年11月13日(水)~12月13日(金)、文化庁が「日本語教育能力の判定に関する報告(案)」についての意見募集を実施しました。
それに応じて、以下の意見を提出しました。(パブリックコメントとして私が提出した文章に若干の修正を加えています。)
要件3「学士」を「短期大学士」に
『日本語教育能力の判定に関する報告(案)』(以下、本報告(案))の「5.資格取得要件3:学士」を、短期大学士とすること、または代替措置を設けることを要望します。
学士要件の必要性に関する検討において、短期大学士とすることまたは短期大学士等学位不保持者に対する資格取得のための適切な代替措置を設けることの可能性について、どのように検討されているでしょうか?
就学前幼児の支援ニーズ
本報告(案)には、「(略)児童生徒など国内外で増加する日本語学習者に,質の高い日本語教育を提供する必要がある」(注1)とあります。
ここでいう「児童生徒など」には、文部科学省『外国人児童生徒等教育の現状と課題』(注2)に照らせば「就学前の幼児」をも含むべきものと考えられます。
当該報告においては、「小学校入学後の円滑な学校生活に向けた就学前の幼児・保護者への支援」の充実が課題であるとされ、「就学前の幼児への支援充実」の具体案として「幼児向けのプレスクール」が挙げられています。
プレスクールにおいて日本語指導者が不可欠であることは、先駆的な取り組み行う愛知県の作成した『プレスクール実施マニュアル』p.15他(注3)にもある通り、明らかです。
そして、同マニュアル内ではプレスクール等就学前幼児の支援は当該幼児が通う「幼稚園・保育園・外国人向け託児所」が主な会場の一つとして想定されています。
すなわち、将来的に充実が期待される就学前幼児の日本語教育は、今後少なからぬ割合で幼稚園・保育所内で実施されることが考えられます。
公認日本語教師の裾野を広げるために
本報告(案)にあるとおり、「公認日本語教師」の制度が
「日本語教育人材の裾野を広げ」ることを目指し、
「様々な経験を生かし多様な人材が活躍できる職業」であって
「多様なルートから日本語教師を目指せるよう,配慮することが必要である」点に鑑みれば、
幼稚園・保育所に在勤する幼稚園教諭・保育士たる職員にも広く「公認日本語教師」資格取得の門戸が開かれることはその趣旨に適合するのみならず、就学前幼児への日本語教育の充実に寄与することともなると考えられます。
しかし、文部科学省のウェブサイト(注4)によれば、幼稚園教諭免許保有者のうち74.6%(2001年)が準学士(短期大学等卒業で得られる称号。現行の短期大学士に概ね相当)を基礎資格とする二種免許保有者、保育士有資格者のうち92.6%(2002年)が短期大学を含む養成施設卒業者が占めているとされます。
すなわち、幼稚園・保育所の現場で子どもの最も近くに立つ教諭・保育者のうち相当数が短期大学士であると考えられます。
就学前外国人幼児への支援充実を謳う文科省の方針、そしてその現場となる可能性の高い幼稚園・保育所に雇用される職員の現状に鑑みれば、「公認日本語教師」の学士要件をもって短期大学士たる者をその資格制度の枠組みから言わば“排除”することは、適切でないと言えるでしょう。
本報告(案)において学位要件を定めた理由から読み取れる(四年制大学卒業相当の)学士にあえて限定する利点と、これまで述べた(短期大学卒業相当の)短期大学士にまで門戸を開いて日本語教師の担い手の裾野を広げる利点とを比較衡量した結果、前者をとる十分な理由があるとするならば、どのようなものでしょうか。
議論の過程において学士と短期大学士とをそれぞれ資格要件とした場合の利点を比較検討したことがあるのか、あるとすればどのような内容だったのかをお示しいただきますようお願いします。
また、仮にその点はすでに議論が熟し学士要件が必要との結論に至ったとすれば、短期大学士やそれに類する者に対して何らかの代替措置を設けることについての検討は行われたのでしょうか。行われたとすれば、その内容をあわせてお示し下さい。
脚注
(注1):『日本語教育能力の判定に関する報告(案)』(文化庁国語課、2019年)p.10「8.日本語教師の資格の社会的な位置付けをどのようにすることが適当か」より
(注2):『外国人児童生徒等教育の現状と課題』(文部科学省、2018年)p.8「帰国・外国人児童生徒等教育の推進支援事業」より
(注3):『プレスクール実施マニュアル』(愛知県、2009年)p.15ほか
(注4):『幼稚園・保育所制度の比較』(文部科学省、2004年)より