判示事項
管理職的地位になく, その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって, 職務と全く無関係に, 公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われた『しんぶん赤旗』等の配布行為は政治的行為に該当するか? → 該当しない
理由
「被告人は, 社会保険庁東京社会保険事務局目黒社会保険事務所に年金審査官として勤務していた厚生労働事務官であるが, 平成15 年11月9日施行の第43回衆議院議員総選挙に際し, 日本共産党を支持する目的 をもって, 第1 同年10月19日午後0時3分頃から同日午後0時33分頃まで の間, 東京都中央区(以下省略)所在のB不動産ほか12か所に同党の機関紙であるしんぶん赤旗2003年10月号外(『いよいよ総選挙』で始まるもの)及び同 党を支持する政治的目的を有する無署名の文書である東京民報2003年10月号 外を配布し, 第2 同月25日午前10時11分頃から同日午前10時15分頃ま での間, 同区(以下省略)所在のC方ほか55か所に前記しんぶん赤旗2003年 10月号外及び前記東京民報2003年10月号外を配布し, 第3 同年11月3 日午前10時6分頃から同日午前10時18分頃までの間, 同区(以下省略)所在 のD方ほか56か所に同党の機関紙であるしんぶん赤旗2003年10月号外 (『憲法問題特集』で始まるもの)及びしんぶん赤旗2003年11月号外を配布した。」というものであり, これが国家公務員法(以下「本法」という。)110 条1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの), 102条1項, 人事院規則14-7(政治的行為)(以下「本規則」という。)6項7号, 13号 (5項3号)(以下, これらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当た るとして起訴された。
同項に いう「政治的行為」とは, 公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが, 観念的なものにとどまらず, 現実的に起こり得るものとして実質的に認められるも のを指し,
まず, 本件罰則規定の目的は, 前記のとおり, 公務員の職務の遂行 の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し, これに対する 国民の信頼を維持することにあるところ, これは, 議会制民主主義に基づく統治機 構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり, 公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行 為を禁止することは, 国民全体の上記利益の保護のためであって, その規制の目的 は合理的であり正当なものといえる。他方, 本件罰則規定により禁止されるのは, 民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由では あるものの, 前記アのとおり, 禁止の対象とされるものは, 公務員の職務の遂行の 政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ, このよう なおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為 が禁止されるものではないから, その制限は必要やむを得ない限度にとどまり, 前 記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そし て, 上記の解釈の下における本件罰則規定は, 不明確なものとも, 過度に広汎な規 制であるともいえないと解される。なお, このような禁止行為に対しては, 服務規 律違反を理由とする懲戒処分のみではなく, 刑罰を科すことをも制度として予定さ れているが, これは, 国民全体の上記利益を損なう影響の重大性等に鑑みて禁止行 為の内容, 態様等が懲戒処分等では対応しきれない場合も想定されるためであり, あり得べき対応というべきであって, 刑罰を含む規制であることをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるものではない。
本件配布行為は, 管理職的地位になく, その職務の内容や権限に裁量の余 地のない公務員によって, 職務と全く無関係に, 公務員により組織される団体の活 動としての性格もなく行われたものであり, 公務員による行為と認識し得る態様で 行われたものでもないから, 公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが 実質的に認められるものとはいえない。そうすると, 本件配布行為は本件罰則規定 の構成要件に該当しないというべきである。
参照法条
国家公務員法102条1項, 人事院規則14−7第5項3号, 人事院規則14−7第6項7号,人事院規則14−7第6項13号, 国家公務員法(平成19年法律第108号による改正前のもの)110条1項19号, 憲法21条1項, 憲法31条
裁判所サイト
要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82801
全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/801/082801_hanrei.pdf
『2019年版出る順行政書士 合格基本書』
p.16 憲法 4〈人権〉公務員の人権