世田谷事件(最判平24.12.7)|わかりやすい憲法判例|人権:公務員の人権(公務員の政治活動の自由)

判示事項

管理職的地位の職員による『しんぶん赤旗』等の配布行為に対する罰則規定の適用は可能か?

→ 可能(職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるため) 

理由

「被告人は, 厚生労働省大臣官房統計情報部社会統 計課長補佐として勤務する国家公務員(厚生労働事務官)であったが, 日本共産党 を支持する目的で, 平成17年9月10日午後0時5分頃, 東京都世田谷区(以下 省略)所在の警視庁職員住宅であるAの各集合郵便受け合計32か所に, 同党の機 関紙である「しんぶん赤旗2005年9月号外」合計32枚を投函して配布し た。」というものであり, これが国家公務員法(以下「本法」という。)110条 1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの), 102条1項, 人 事院規則14-7(政治的行為)(以下「本規則」という。)6項7号(以下, こ れらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当たるとして起訴された。

 

被告人は, 厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であ り, 庶務係, 企画指導係及び技術開発係担当として部下である各係職員を直接指揮 するとともに, 同課に存する8名の課長補佐の筆頭課長補佐(総括課長補佐)とし て他の課長補佐等からの業務の相談に対応するなど課内の総合調整等を行う立場に あり, 国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり, 一般 の職員と同一の職員団体の構成員となることのない職員であったものであって, 指 揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことので きる地位にあったといえる。このような地位及び職務の内容や権限を担っていた被 告人が政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことにつ いては, それが勤務外のものであったとしても, 国民全体の奉仕者として政治的に 中立な姿勢を特に堅持すべき立場にある管理職的地位の公務員が殊更にこのような 一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出ているのであるから, 当該公務員による裁 量権を伴う職務権限の行使の過程の様々な場面でその政治的傾向が職務内容に現れ る蓋然性が高まり, その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組 織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって, こ れらによって, 当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が 損なわれるおそれが実質的に生ずるものということができる。

 

参照法条

国家公務員法102条1項, 国家公務員法(平成19年法律第108号による改正前のもの)110条1項19号, 人事院規則14−7第6項7号, 憲法21条1項, 憲法15条, 憲法19条, 憲法31条, 憲法41条, 憲法73条6号

 

裁判所サイト

要旨: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82802

全文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/802/082802_hanrei.pdf

 

ウィキペディア(Wikipedia

厚生労働省職員国家公務員法違反事件

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E8%81%B7%E5%93%A1%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%85%AC%E5%8B%99%E5%93%A1%E6%B3%95%E9%81%95%E5%8F%8D%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

2019年版出る順行政書士 合格基本書』

p.16 憲法 4〈人権〉公務員の人権