「NPOを仕事にする理由 」- カナダ移民難民支援NPOのエグゼクティブ・ディレクターが語ったこと|アクセル・ジャンサーへのインタビュー Vol.1

僕(@takuji85)は2017年12月から6ヶ月ほど、カナダ・トロントで移民・難民等のコミュニティを支えるNPOアクセス・アライアンスで、ボランティアをさせてもらいました。

 

その際、当時受講していた大学の課題の一環で、エグゼクティブ・ディレクター(事務局長)のアクセル・ジャンサーさんにインタビューをする機会に恵まれました。

 

 

 

Axelle Janczur

Executive Director at Access Alliance

(https://twitter.com/axellejanczur)

 

 

 

このインタビューをした時、僕は「このままNPO業界で働き続けるべきか」悩んでいた時期でした。しかしアクセルさんのこの話を聞いて、非営利セクターで働き続ける方向に背中を押されたことを覚えています。

 

もし、NPOを仕事にすることについて悩んでいる方がいれば、一度、目を通してみてください。

 

 

以下、アクセル・ジャンサーさんへのインタビューです。

 

NPOで働く理由

山田 アクセルさんは、なぜ非営利セクター、中でもこのNPOアクセス・アライアンスで働こうと思われたんですか?

 

 

アクセル 話せば長くなるので(笑)、簡潔にお話ししましょう。

 

私は移民1世にあたります。両親は第2次世界大戦の後にカナダへやってきました。ヨーロッパで結婚してからこちらに来たそうです。そして私はカナダで生まれました。

 

でも子どものころに父を亡くしたので、母と私はヨーロッパに戻りました。その後、私は大学に通うためにカナダへ戻って来たんです。18歳の時でした。自分を「カナダ人」であると認識していたので、こちらに戻ってきたということもありますね。

 

大学生のころは、選挙関係ではないんですが、政治的な活動に関わっていました。政治学を専攻していたので、「自分の周りの世界はどんなふうにできているのか、開発とは、第一世界と第三世界とはなにか・・」、そういったことについて学びを深めていました。

 

そんな中、ボランティア活動を始めることにしました。カナダには、家族も知っている人もいなかったので、もっと人と関わりたいと思ったからですね。

 

私はスペイン語が話せるので、その力を活かせる小さな組織でボランティア活動を始めました。スペイン語を話す難民やニューカマーの人たちと、自分の境遇が似ていると感じたこともボランティアを始めた理由の1つだったと思います。

 

それは私にとって非常に価値ある経験でしたね。その組織は、人々の生活を向上させ、人生における成功を支えることを目的としていました。私は、仕事としても、個人的にも、その活動にとても大きな価値を感じていたので、就職の時もそのままこの分野に留まりました。

 

ミッション(使命)を持ち、世界をより良くするビジョンを持っている組織で働くことは非常に重要だと思っています。だから、私はこの分野に残りました。

 

私はいまの勤務先で管理職になり、キャリアに成功したとも言えますが、まぁそれはそれですね。私は自分の周りの世界を改善することに関わる組織で働くこと以外、想像できません。ここで働く理由はなにかと問われたら、つまり・・、“やりがい”ですね!

 

この社会で優位に立てない人

山田 僕はよく人から「NPO?何それ?なんでそんなとこに就職したの?」と聞かれます。

 

中学から大学まで私立に通わせてもらって、もちろんそれに相当お金がかかったと思うので、父は非営利セクターへの就職に反対しました。でも僕も、アクセルさんと同じように使命を感じたんですね。それでこれまで非営利セクターで働いてきました。でもいまは、将来もこの仕事をつづけるかどうか、ちょっと考えているところです。

 

 

アクセル そうですよね。問題なのは、現実として目の前にあらゆる社会的な必要性があるということです。

 

特に私たちの資本主義システムは、そこで優位に立てない人を必ず生み出します。それはかれらの自己責任ではなく、そういう“システム”なんですね。

 

だから、私たちの社会は、その人たち(優位に立てない人たち)に対して果たすべき責任があります。

 

かつてはキリスト教会がその役割を担っていました。教会はそういった人びとを支えるために多くの働きをしています。しかし、問題は教会が担い得るものより大きいのです。

 

そして教会は良い面ばかりを持っているわけでもありません。レジデンシャル・スクール(カナダの先住民を虐げた寄宿学校で、キリスト教会も関与していた)など、人々に大きな害をもたらした歴史があります。事実、教会が最善とは言えません。だから、非営利セクターがその役割を担うのです。

 

NPOはお金を稼ごうとするものではなく、社会に変化を起こそうとするものです。だからいつもその存在が必要とされているんですね。

 

人生の意味とは?

アクセル 私たちは“地球市民”として、あらゆる価値観や哲学について考える責任があります。そういうことを考えて生きている人もいるし、そうでない人もいる。私はそう生きているし、あなたもそういうふうに生きているみたいですね。あなたはその責任を果たしています。私たちは責任を負っています。

 

・・人生の意味って何でしょう? とても哲学的な問いですが(笑)。人生の意味とは?

 

あなたは生まれ、そして死ぬ。そこに意味はないかもしれない。だから、あなたは意味を見出すために何かをしようとします。

 

意味は自分の世界だけで完結するものではありません。周りの世界と関わるものです。

 

私は恵まれています。個人的に満たされ、充実しています。でも私はコミュニティにいる他の人たちと関わる仕事をしているおかげでその満足を得ています。

 

そう、私の家族もあなたの周りの人たちと同じですよ。ロンドンでビジネスマンをしている私の兄弟はこう言っています。「え、NPO?どういう意味?理解できないな」って。

 

私はビジネススクールに行って、MBA(経営学修士号)を取得しました。それは、非営利セクターの強化に尽力するためです。NPOの多くは、これまで長らく最善のかたちで運営されてきたわけではありませんでした。

 

私たちNPOは強くなければなりません。効果的でなければならず、費用対効果を高め、資金を集めてそれをマネジメントしなければなりません。そして実行するプログラムの質を高めなくてはならない。それは、(営利企業でも)NPOでも同じことです。

 

 

山田 そうですよね。僕もそう考えて、こちらの大学でNPOリーダーシップ・コースを取って勉強しています。

 

 

アクセル ですね!だから、NPOで働いていない人たちが私たちの仕事について詳しく知ったら、きっと「おお、すごい!」ってなりますよ。

 

これは大変な仕事です。ほんとに。いいんですよ、あなたはたくさんお金を稼ぐことはできないし、私も稼いでいませんでした。いまは年を重ねてほんの少しは稼げるようになりましたがね。でも、あなたが働いている理由はそれではありませんよね。

 

インタビュー:2017年11月1日、カナダ・オンタリオ州トロント市にて。

 

インタビューを終えて

アクセルさんと話していた中で特に印象的だったのは、この言葉でした。

あなたは生まれ、そして死ぬ。そこに意味はないかもしれない。だから、あなたは意味を見出すために何かをしようとします。

意味は自分の世界だけで完結するものではありません。周りの世界と関わるものです。

僕がNPO活動を継続するうえで抱えていた問いが、まさに「意味はあるのか?」ということでした。

 

同年代の人たちほどにはお金を稼げるわけでもない上に、忙しすぎてプライベートの時間を確保するのも難しいような仕事に、人生を捧げる意味はあるのか?

 

その問いに答えることは非常に困難です。

 

しかし、活動そのものに意味があるのではなく、活動することで自らの命に意味を見出していくと捉えることで、腑に落ちた気がしました。

 

 

おそらく、非営利セクターで働く人びとは、国境を越えて世界中で同じような悩みを背負い、そこに答えを紡ぎ出そうとしているのだと思います。

 

日本ではNPOはまだ小さな業界ですが、だからこそ世界の人びととの横の繋がりを築き、心を連帯させて、共により良い人類社会を創っていくことができればと願うものです。