在日外国人の実態と日本語教育|Sayakaさん寄稿

ライターで日本語教師のSayaka(@silkyblossom)さんに、インタビュー記事を寄稿していただきました。

在日外国人の実態と日本語教育

日本語教師ってどんなところで教えているの?誰に教えているの?

 

そんな質問をされるたび、この職業が認知されていないことを痛感する。それは私一人だけではなく、日本語教師として働いている人なら一度は感じたことがあるだろう。

 

また、街中や電車内、コンビニや飲食店などで働く「外国人」を見かけた際、彼らにどのような滞在資格や目的があってこの日本にいるのか、みなさんは気にしたことがあるだろうか。

 

外国人児童への教育は誰のため?

日本語教師かつ保育士、元保育園園長。これは山田拓路さん(三十代/男性)が持つ肩書きだ。2017年春から2018年夏頃までカナダに留学しており、現在はYSCグローバル・スクールでコーディネーターとして職員を勤めている。

 

YSCグローバル・スクールは、東京都福生市に拠点を置くNPO法人青少年自立援助センター(1999年設立)が運営する、日本語を母語としない子どもや若者たちへの教育支援をしている学校だ。年間の学費が数百万円とかかるような“インターナショナルスクール”とは異なる。

 

日本の学校に在籍しているものの、海外にルーツがあるため、日本語指導が必要だとされている子供たちが、現在全国で4万人以上いるといわれている。(参考:『日本語支援のない子 10,400人』)そういった人たちを対象とした学校だが、一概に「海外にルーツを持つ子どもたち」といっても、通う学生の背景は様々だ。

 

YSCグローバル・スクールでの授業中の様子
クラスに分かれて、日本語や各教科を学んでいる

 

外国籍の人もいれば、ハーフ、クォーターと呼ばれるような保護者のうちの誰かが外国出身である人(日本国籍、二重国籍など)、または、海外生まれ、海外育ちの帰国子女といった6歳〜30代までの学生達が、平日の日中、もしくは放課後の時間を利用し、個人必要数に応じて日本語学習はもちろん、算数や社会科といった各教科を学んでいる。

 

現在はICT教材を利用したオンラインでの受講もしており、その参加者も含めると数十カ国にルーツがあり、100人以上の学生達がここで学んでいるそうだ。(参考:YSCグローバル・スクール|NICOプロジェクト Webサイト

 

 

「学生の時、貧困問題に興味があって」と話す山田さんは、その当時ホームレスや日雇い労働者へのボランティア活動をしていたという。また、貧困問題だけでなく、教師にもなりたいという考えの元見付けたのが、名古屋にあるフリースクールだった。

 

そこでは家族がオーバーステイしていることや生活格差、いじめなどが原因で、公立の学校に通えないようなフィリピン人の学生たちがいたという。そこでなら自分のやりたかったことができると働きはじめた。その後、岐阜県にある在日フィリピン人向けの保育園で園長を四年半ほど務めている。

 

「ただ目の前の人に施しをして今日助かったとしても、明日はどうなるかわからない。それにその人一人は助かっても、他の人たちはどうなるのかわからない。同じように、ここに通えている子たちはいいけど、通えていない子たちへはどうすればいいんだろうって…社会そのものに訴えかけて、このサイクルを変えないといけないと思うようになったんです」

 

その思いが、後の留学、現在の仕事へとつながったと話してくれた。ちなみに、勤め先とのつながりで決めたカナダのトロント大学では、NPOリーダーシップコースを修了している。

 

 

現在の問題点は、その場しのぎの政策や対策だと山田さんは指摘している。特に自分たちの意としてではなく、日本で生計を立てようという親に連れてこられた外国籍の子どもは教育が義務化されておらず、体制の整っていない公立の学校からは、日本語がわからないことを理由に入学を拒否されるケースもあるというのが現状だ。

 

そうすると勉強はおろか、日本語も母国語もままならず、どこへいっても外国人扱いをされてしまう子供をうみかねない。移住者としての短いスパンではなく、日本の将来を担う外国人児童への教育の必要性、多様性への相互理解を広めることが重要だという。そういった考えから、自身の活動に「多文化保育イニシアティブ」(‎@tabunkahoiku)と名付け、講演会の開催やSNSでの情報発信を積極的に行なっている。

 

 

そして最後に、ある一人のフィリピン人児童のことを話してくれた。その子は持病があることも原因して、長いこと学校に通うことができなかったというが、体制ができ、山田さんが以前勤めていた学校で受け入れることになった。しばらく通った後、地域の学校にも通えるようになり、自身の異動もあって離れてしまったというが、残念ながら現在は病状が悪化し、意識がない状態が続いているという。

 

「ほんの短い間だったものの、その子が楽しそうに遊んだり、勉強したりした時間はかけがえのないものだったと思います。そして自分がその子に出会えたこと、その時間に関われたことで今の自分があるんだと思います」と話す様子からは、山田さんの優しさと意志の強さが感じられた。「いつか社会や政府が動くように」そう確信して、日々発信を続けている。

 

 

日本語教師の役割と

現在日本に在留する外国人の数は、法務省の調べによると平成29年末で約256万人といわれており、2019年4月から、昨年末の臨時国会で可決・成立した改正入管法が施行されたこともあって、今後も在留外国人の増加が予想されている。先の三者への取材からもわかる通り、日本語教育の重要性や可能性が期待できるが、それを担う日本語教師が現場に不足しているのが現状だ。

 

現在日本語教師として働く人数は、39,588人で、一昨年より1,626人増加したといわれているが、常勤(正社員)として働く日本語教師は全体のわずか13%だ。約30%は非常勤で働いており、残る57%は無償のボランティアだということが文化庁の調査(平成29年度「国内の日本語教育の概要」)からもわかる。需要ややりがいはあるものの、待遇、給与水準の低さから、担い手不足が懸念されている。

 

日本語教師の就業状況
半分以上がボランティアで担われているのがわかる。

 

また、外国人の地域への受け入れ体制については各自治体に一任された状況で、以前から外国人が多く暮らしている地域と急激に増えた地域、予算も人材もいない自治体、地域との間では大きな格差が生じている。

 

教育や生活のサポートはもちろんのこと、今後は同じ日本に暮らす一員として私たち一人一人が彼らに接し、協力していくことが必要だろう。

 

 

【参考資料】

YSCグローバル・スクール https://www.kodomo-nihongo.com/index.html

平成29年度国内の日本語教育の概要(文化庁) http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/h29/

平成30年末現在における在留外国人数について(法務省) http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00081.html